■黄砂の正体

スギ花粉の観察はその後も続けている。今は、屋上にコーヒフィルター紙をセットして、雨に取り込まれてくる花粉を定期的に採取している。4月1日から4日まで放置したフィルターを回収してびっくりした。フィルターが黄色くなっている。3月上旬の花粉量が多いときには、黄色く見えるが、今の花粉が少ない時期には考えられない。これは、最近ニュースになっている大気の黄砂が、3日の雨で寄せ集められたものと思う。
花粉の系統的な観察は後日にして、黄砂を観察することにした。その結果を紹介する。
図1は回収したコーヒーフィルターの光学顕微鏡像である。コーヒーをこぼしたように、部分的に薄茶色に染まっている。さらに驚いたのは、二枚重ねてあるフィルターの下の紙(図2)も同じよう薄茶色に染まっていることであった。このフィルターでは、花粉はほとんど一枚目のフィルターで回収され、二枚目には抜け落ちにくい。

一枚目のフィルター表面顕微鏡像 二枚目のフィルター表面顕微鏡像
図1 一枚目のフィルター表面顕微鏡像 図2 二枚目のフィルター表面顕微鏡像


まず一枚目のフィルター表面をタイニーSEMで観察した。

一枚目フィルター表面のSEM像 図3左部の拡大像
図3 一枚目フィルター表面のSEM像 図4 図3左部の拡大像


図3はその代表的な視野である。4月になってもスギ花粉はかなり認められた。左端には、3月上旬に見られるまるまる太った花粉と、破裂して萎んだ花粉が散在している。さらに拡大すると、図4に見られるように、砂利のような粒子がびっしりフィルター繊維に覆いかぶさっていた。花粉の直径が約30μmであるから、砂利の大きさはその10分の1程度で、数μmと小さい。これが黄砂の正体である。

図3右部の拡大像 視野A,B部の説明
図5 図3右部の拡大像 図6 視野A,B部の説明


さらに拡大して観察した。図5は図3右上の部分を拡大した像である。図6に示すA,B部をさらに拡大して観察した結果を、図7〜10に示す。

視野Aの拡大像 視野Aの強拡大像
図7 視野Aの拡大像 図8 視野Aの強拡大像


視野Bの拡大像 視野Bの強拡大像
図9 視野Bの拡大像 図10 視野Bの強拡大像


黄砂粒子の形状はまちまちで、視野Aは、中央にガラスのように多角形に割れた粒子が認められる。このような岩石のような粒子は稀で、その回りにあるような不定形の粒子が多い。別の視野Bでは、不定形の粒子で、鉱物というより、植物の一部のようにも見える。

二枚目のフィルター紙の表面を観察すると、

二枚目のフィルター表面 中央部の拡大像
図11 二枚目のフィルター表面 図12 中央部の拡大像


スギ花粉はほとんど見当たらず、フィルター上に細か粒子が一面に詰まっている(図11)。順次拡大すると(図12、13)、正に砂利を敷いた庭のようである。
図13は図12の中央部を拡大した像で、図14に示す視野C,Dをさらに拡大して観察した。

図12の中央部拡大 視野C,Dの説明
図13 図12の中央部拡大 図14 視野C,Dの説明


視野Cの拡大像 視野Cの強拡大像
図15 視野Cの拡大像 図16 視野Cの強拡大像


視野Dの拡大像 視野Dの強拡大像
図17 視野Dの拡大像 図18 視野Dの強拡大像


二枚目のフィルターに付着した黄砂も、一枚目と同じような大きさと形であった。

黄砂と呼ばれているので、前に観察したエジプトの砂のようなイメージを持っていたが、実際には、形と大きさはイメージとかけ離れていた。広辞苑を見ると、砂とは、細かい岩石の集合で、大きさが2〜1/16mm、粘土は風化作用を受けた鉱物の二次鉱物粒子で、大きさは2μm以下、その中間のものはシルト(沈泥)という。

観察した黄砂の大きさは、およそ10〜1μmで、直径約30μmのスギ花粉よりかなり小さいことがわかった。砂というよりは、シルト、または粘土に近い。春になると、このような微粒子が大気中に浮遊しているのだ。黄砂が発生する中国では、もっと大きな砂が舞い上がっているかもしれない。しかし、遠く離れた日本には、浮遊してなかなか降下しない細かい粒子だけが運ばれてくるのだ。中国では黄砂だが、日本ではむしろ黄土と呼んでも良いのでは。粒子がどんな物資なのか、生物系の粒子が混ざっていないのか、など知りたい事が増す。是非元素分析もしてみたいものだ。



                                         −完−




タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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