■生に近い状態での観察4(花梅)
ユキヤナギの次に、同じく木に咲く梅の花に注目した。梅の独特の香りがどこから出ているのかも知りたかった。庭に梅の木がないので、お花屋さんで花梅を購入してきた。 図1に示すように鮮やかなピンク色の花で、梅の香りがした。
図2は一輪の花を正面から撮影した写真である。雄蕊が多くて花糸が異常に長い事に気づいた。梅や桜などの花は枝に幾重にも連なっている様子を鑑賞していて、近くで一輪を見ていなかった事を反省した。 図2で雄蕊の数を数えたら約55本あった。それにしても、一本の雌蕊に、どうしてこんなに多くの雄蕊が群がっているのであろうか。また受粉に多くの雄蕊が必要なのか不思議である。
・雌蕊と雄蕊 そこで、さらに花の中を拡大して観た。図3,4はその写真で、一本の雌蕊の周りに沢山の花粉を含んだ葯が群がっていた。図4は雌蕊の柱頭部を拡大した写真である。上表面に花粉が付着しているようだ。
図5は図4で観察した柱頭をSEMで観察した写真である。柱頭表面は粘り気のある物質が覆い、そこに花粉が付着している(図6)。花粉の付着している様子を拡大して観察した。その結果を図7,8と9,10に示す。
花粉は粘液に埋もれているが、かなりしっかりした形状を保っている。花粉管は認められないが、おそれらく粘液の中に伸びているのであろう。
柱頭を上部から観察したのが図11,12である。ここで特徴的なのは、柱頭の中心部に穴が開いている事である。以前ぶどうの雌蕊を観察した(初めて見たブドウの花)時にも柱頭に穴を見つけたことを思い出した。それから詳しい理由は解明していないが、やはり、粘液で付着させた花粉を、この穴から花柱の中に流し込み、確実に子房の胚珠部に送り込むように工夫されているのであろう。 雄蕊も観察した。その結果を図13〜16に示す。
低真空で観察したが、花粉はすこし萎んでいるようだ。雌蕊を観察している間に水分がいくらか蒸発したのであろうか。 ・蜜腺 次に、花の中を覗いてみた。図17〜20にその結果を示す。
花の中を覗くと、雌蕊の根元が子房になっている。図17,18は子房の根元部である。子房の根元には多くの繊毛が生えている。注目したのは、花弁の根元部で子房の周りの壁に粘液球が沢山あることだった。 その拡大を図19,20に示す。これは蜜であろう。壁から湧き出ている様子をもう少し詳細に観察したくなり、別の花の縦断面で観察する事にした。
図21は梅の花の縦断面で、中央の黄色の組織は子房である。その周りの花弁下部の壁には、光った蜜と思われる粘液が認められる。図22は別の花で、子房を取り去ると壁面全体に水滴のような透明な粒がたくさん認められる。蜜かどうか舐めてみればよかった。 図21の試料をSEMで拡大して観察した結果を図23〜34に示す。
図23,24は縦断面のSEM像である。子房周辺の壁に沢山の粒が認められる。粘性があるため蒸発しなかったのだろう。この蜜の粘液がどこから湧き出ているのかを知りたくて、根元が見える粘性粒をさらに拡大して観察した。
図29,30から、壁面には直径1μm以下のうどんのような組織からにじみ出ているようである。このうどん状の組織が梅の蜜腺であろうか。 図24の左上の視野についても拡大して観察した。結果を図31〜34に示す。
図34で、粘液(蜜)がうどん構造から出ている事が再確認できた。 今回は、花梅の受粉と蜜の詳細を観察した。受粉では、梅の雌蕊が柱頭表面に粘液を出し、それに花粉を付着させて受粉する事がわかった。しかも、柱頭の中心に穴があり、そこから花粉を花柱に取り込むようである。 花弁の根元の壁面には、うどん状の筋状の組織があり、そこから、粘液が出て20〜500μmの粘液粒を作っている事がわかった。これが梅の蜜腺であろう。この蜜の味や匂いを確かめる事ができなったが、おそらく、梅の独特な匂いもこの蜜から出ているのではないか。これは来年の課題にしたい。 ・その後 花が咲いて3週間くらい過ぎたら、図35のように子房が実に成長していた。実の先には雌蕊がまだ着いているし、周りには雄蕊の冠が取り巻いている。図36はさらに4週間くらい過ぎた実で、雌蕊や雄蕊もはずれ、色も大きさも立派な梅の実に成長していた。
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