■ 美しく身軽なアメンボ(ヒメアメンボ1−翅、複眼)

5月中旬、屋上にアメンボがいるのを見つけた。水もないのにどうしてこんなところに。アメンボと言えば、川や池に居ると思っていたが、どこから来たのか不思議であった。
図鑑を見たら、餌や水が足りなくなると、他の場所を求めて飛来すると説明してあった。池を求めて飛んでいる間にここで休んだのかな。それにしてもどこから飛んできたのかな。我が家の上200mくらいの裏山に清水でできた一畳くらいの小さな池があることを思い出した。そこかなと登って行って見たら、案の定アメンボが一杯。10匹ほど採取した。この池で繁殖したアメンボが、別の池を求めて、我が家の屋上まで飛んできたのだ。いずれのアメンボも尻尾の形からヒメアメンボであろうと判断した。

アメンボをじっくり見るのは初めてであった。実体顕微鏡で観て驚いた。翅に金色の斑点模様がある。美しい!どうしてこんな美しい翅をもっているのであろうか。アメンボといえば、どうして水に浮くかという謎が話題になるが、ここではまず翅の美しさを紹介する。



・美しい翅のなぞ

水に浮かぶアメンボ 上から見たヒメアメンボ
図1 水に浮かぶアメンボ 図2 上から見たヒメアメンボ


図1は採取したアメンボである。6本の脚で水面上をスイスイ泳ぐ。図2,3は乾燥させたアメンボで、図2は上から、図3はひっくり返して、腹側を斜めから撮影した写真である。

腹部を斜めから見る 腹部にある臭線
図3 腹部を斜めから見る 図4 腹部にある臭線


図4は後脚と中脚の間の腹部を拡大した像で、中央に透明な粒が見える。これは臭線から出た粘液で、特有の匂いを出す。確かに採取した瓶に鼻をかざすと、甘いような匂いがした。この匂いが飴に似ていて、体型が棒のようなので、「飴ん棒」からアメンボという名前が付いたとの事である。
さて、感動した翅の写真を紹介する。

金の斑点で描かれたような翅
図5 金の斑点で描かれたような翅


図5は背部を実体顕微鏡で撮影した写真である。少しコントラストを強くしたが、照明に反射されて、日本の伝統的な工芸である、蒔絵や沈金で加飾された漆器を思わせる。この金色の斑点はどんなものなのか拡大して観察することにした。

観察した翅の部分 図6の同一視野のSEM像
図6 観察した翅の部分 図7 図6の同一視野のSEM像


図6は翅の中央部を切り出して試料台に固定した光学顕微鏡写真である。図7はその同一視野のSEM像である。
まず図7のY字型の視野(枠A)を拡大して観察した。その結果を図8〜14に示す。

図7中央部 図8のY字部拡大
図8 図7中央部 図9 図8のY字部拡大


図9から、金帯には約30μmくらいの長さの毛が生えている事が分かった。この毛が金色に輝いていたのだ。さらに拡大する。

図9拡大 図10拡大
図10 図9拡大 図11 図10拡大


表面の全面にさらに細かい微毛が覆っている事がわかった。

図11拡大 図12微毛部拡大
図12 図11拡大 図13 図12微毛部拡大


図13の微毛強拡大 微毛だけの視野B
図14 図13の微毛強拡大 図15 微毛だけの視野B


微毛は細長い三角錐で、ある点を中心につむじのように生えている。この微毛は水を弾くのに役立っているのであろう。それにしても、美しい幾何学模様だ。さらに微毛だけの領域(枠B)を観察した。その結果を図15〜19に示す。

図15の拡大 図16の拡大
図16 図15の拡大 図17 図16の拡大


図17の拡大 図18の拡大
図18 図17の拡大 図19 図18の拡大


図16は、強い風で倒れた稲のようである。なぜこのように場所により倒れる方向が異なっているのであろうか。図19から微毛の長さは約3μmで、長い毛の10分の1の長さである事が分かった。



さて、金色に光る長い毛をもう少し詳細に調べた。そのため図7の枠C部を拡大して観察した。その結果を図20〜26に示す。

枠C部 図20中央部拡大
図20 枠C部 図21 図20中央部拡大


図21の拡大 図22の拡大
図22 図21の拡大 図23 図22の拡大


図23の拡大 図24の拡大
図24 図23の拡大 図25 図24の拡大


図25の拡大 金帯部の断面
図26 図25の拡大 図27 金帯部の断面


図24〜26で長い毛の表面はほとんど凹凸がなく、滑らかである事が確認できた。

金帯部をさらに詳しく調べるため、図20のD部を左方向から断面を順次拡大して観察した。結果を図27〜31に示す。

図27の拡大 図28の拡大
図28 図27の拡大 図29 図28の拡大


図29の拡大 図30の拡大
図30 図29の拡大 図31 図30の拡大


長い毛は、かなり硬そうである。図30では切断された毛の断面が認められる。その拡大を図31に示す。断面は、幅約2μm、厚さ約1μmで、上面は扁平であり、下面は円形のかまぼこ型になっていて、反り返っている。中央に小さな穴があるようだ。断面の微細構造は無いようである。

金帯の横の微毛だけの部分の断面も観察した。その結果を図32と33に示す。

翅の薄い部分の断面 図32の拡大
図32 翅の薄い部分の断面 図33 図32の拡大


微毛は絨毯のカットパイルのように生えていた。しかも、裏側にも同じように生えている。これでは確実に水を弾くことができ、池の中でも濡れにくい事がわかる。

考察:さてこの長い毛がどうして金色に輝くのであろうか。上面が平らで滑らかである事、下面が円形で光を収束して反射できると仮定すると、ほとんどの光線を強く反射し、わずかに青色系の光を吸収するため、金色に見えるのではないかと考えたがどうであろうか。



・アメンボの複眼

アメンボは、図34に示すように、つぶらな瞳が魅力的である。球状の複眼からはほとんど全方向の情報が得られるのであろう。この複眼を拡大して観察した。

頭部側面からの光学顕微鏡写真 頭部側面からのSEM像
図34 頭部側面からの光学顕微鏡写真 図35 頭部側面からのSEM像


図34は頭部を側面から撮影した光学顕微鏡写真である。球に近い複眼が特徴的である。図35は頭部を切り出し、SEMで観察した写真である。複眼を順次拡大して撮影した結果を図36〜42に示す。

複眼全体 複眼の拡大
図36 複眼全体 図37 複眼の拡大


図37の拡大 図38の拡大
図38 図37の拡大 図39 図38の拡大


複眼は、ボールやドームを思わせる。サッカーボールは5角形と6角形のパネルからできているが、この複眼はすべて6角形のパネルからできていて見事である。コアシナガバチ(恐れられる蜂(コアシナガバチ1−女王蜂))の場合は複眼全体が楕円体であるので6角形の他に変形4角形などが並んでいたが、アメンボの複眼はほぼ球形であるので6角形だけの個眼で形成できるのであろう。芸術作品である。
さらに拡大すると

図39の拡大 個眼の頂点1
図40 図39の拡大 図41 個眼の頂点1


個眼の頂点2
図42 個眼の頂点2


図40で6角パネルの頂点に白い構造が認められた。それを拡大したのが図41,42である。図41では花が咲いたような形をしている。図42では花の中央に穴が開いているようである。ミツバチなどではこの頂点に毛がはえていたが、アメンボの複眼のどの頂点にも毛の形跡が認められなかった。
この花のような頂点の構造は何のためにあるのであろうか。水や空気を通す穴なのか、不思議である。

以上、アメンボの翅と複眼について観察してきた。何気なく見ていた昆虫にも、美しい模様がある事が分かった。それらの機能は十分理解できないが、神様が創造された国宝級の芸術作品を鑑賞できた。



                               −完−









タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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