■恐れられる蜂(コアシナガバチ2−女王蜂の巣)



前回は、採集した女王蜂の産卵管、複眼、それに翅のフックを観察した。今回は、同時に採集した女王蜂の巣を拡大して観察することにした。

採集した時に撮影した巣 観察時に撮影した巣と切断部
図1 採集した時に撮影した巣 図2 観察時に撮影した巣と切断部


図1は前回紹介した私のバイクに女王蜂が作った巣の写真である。巣穴は六角形に近く、その対面の間隔は約3mmである。採集してまもなく撮影したので、産み付けられた卵がそのまま8個の巣穴に見える。今回はこの巣の構造をSEMで詳細に観察することにした。卵は三日ほどで幼虫に成長するとのことなので、その寸前であると考えられる。
図2はその後、乾燥させた巣の写真である。卵は乾燥して見えなくなっている。巣の内面を観察するため、図2の青、赤枠で示すように切り取り、矢印の方向から観察した。

切断した巣の内面 巣の内面のSEM像
図3 切断した巣の内面 図4 巣の内面のSEM像


図3は図2の青の切断試料を矢印の方向から撮影した光学顕微鏡像である。下部の黄土色の組織は、乾燥した卵である。そのSEM像を図4に示す。巣の内面をさらに拡大して観察する。

巣の内面上部 巣の内面拡大
図5 巣の内面上部 図6 巣の内面拡大


図5は図4の上部の写真である。上部3分の1くらいの位置に、境界があるのが分かる。この境界部分を拡大したのが図6である。巣は繊維状の木の皮のようなもので作られ、下部ではそれが粘性のある物質で覆われているようである。この領域をさらに拡大した。

図6の上部拡大 図6の下部拡大
図7 図6の上部拡大 図8 図6の下部拡大


図7〜12には、左側(奇数図番)には図6上部の拡大を、右側(偶数図番)には下部の粘性のある表面部の拡大像を示す。

図7の拡大 図8の拡大
図9 図7の拡大 図10 図8の拡大


図9の強拡大 図10の強拡大
図11 図9の強拡大 図12 図10の強拡大


図9,11からは、巣を作る繊維は、枝や幹の繊維である事が分かる。固定用に粘性物質が少し使われてはいるが、隙間も多く、通気性もあると考えられる。図10,12では、繊維の表面全体に、粘性のある物質が塗りたくられ、密閉度が増している。これは巣の強度を強くし、雨などから遮蔽する役目をしているのであろう。
次に、図5の右側に見られる壁の切断面を観察した。

巣の断面上部 巣の断面下部
図13 巣の断面上部 図14 巣の断面下部


図13は壁の上部、図14は中央部の壁の断面を示す。

図13の拡大 図14の拡大
図15 図13の拡大 図16 図14の拡大


図15の拡大 図16の拡大
図17 図15の拡大 図18 図16の拡大


上部の壁の厚さは20〜30μm、中央部の壁の厚さは80〜100μmであることが分かった。繊維の断面径は、細いもので5μm、太いもので20μmくらいである。葉っぱのような板状のものは少なく、和紙の繊維のように、木材の繊維部を使っていることが分かった。図16から、下部の表面の粘性のある構造は認められなかった。極表面だけに塗られているようだ。

次に巣の下部内面を観察した。

巣の内面下部 図19下部拡大
図19 巣の内面下部 図20 図19下部拡大


図19下部の塊は、図1で観察した卵が乾燥したものである。図20では、卵の端がわずかに切り取られているが、内部構造は見えなかった。図1から、卵の径は約800μmであり、図20では約300μmに縮まっている事が分かった。
卵の上方に、小さな塊が認められた。それを拡大したのが図21〜24である。塊を拡大して観察した。

図19上部拡大 図21拡大
図21 図19上部拡大 図22 図21拡大


図22右下部拡大 図23の強拡大
図23 図22右下部拡大 図24 図23の強拡大


塊は、約80x100μmの楕円体で、拡大するとさらに細かい100〜200nmの粒からできていることが分かった。卵が乾燥によって2.5〜3分の1に収縮したことから、この塊も、200〜300μmの大きさであったと考えられる。インターネット上で、蜂が巣で餌となる肉団子を作っている動画があるが、それらの画像から、肉団子の大きさは一個の卵くらいから、その倍くらいの大きさである。しかしそれは成長した幼虫に与えている場面が多い。塊が練って作られたようであるので、これは初期の幼虫への肉団子ではないかとも想像する。しかし、肉団子は親蜂が口移しで与えるようである。なぜ、巣内にこのような塊が張り付けられているのかは疑問である。

次に、切り取った巣を上方から観察した。

図4を上方より 図25拡大
図25 図4を上方より 図26 図25拡大


図26拡大 図27拡大
図27 図26拡大 図28 図27拡大


図25〜28は、切断した巣を上方から観察した結果で、図25では卵の一部が切り取られている事が確認できる。また図26では図21,22で観察した塊像が確認できる。図27,28は粘性のある表面を上から観察した像である。

次に、今まで観察した巣穴の隣の巣穴を観察した。これは図3では右側の穴内面に対応する。

隣の巣の内面 図29上部拡大
図29 隣の巣の内面 図30 図29上部拡大


図30拡大 図31強拡大
図31 図30拡大 図32 図31強拡大


ここでも、100μm程度の塊が数個認められた。その拡大を図31,32に示す。
さらに、巣穴の上部に珍しいものを観察した。

図29上部拡大 図33拡大
図33 図29上部拡大 図34 翅図33拡大


図34拡大 図35拡大
図35 図34拡大 図36 図35拡大


図33〜36で示すように、スギの花粉(
スギ花粉の正体(その2))が付着していた。一個だけであったので、女王蜂の体に付着して入ったか、雨粒の中にあったと考えられる。

次に、巣の外面を観察した。試料は、図2で切り取った赤枠の部分である。
それを拡大して観察した。

巣の外面 外面のSEM像
図37 巣の外面 図38 外面のSEM像


図38の拡大 図39の拡大
図39 図38の拡大 図40 図39の拡大


図40の拡大 図41の強拡大
図41 図40の拡大 図42 図41の強拡大


図37は光学顕微鏡写真である。同一視野をSEMで観察したのが図38である。順次拡大して観察した結果が図39〜42である。内面を観察した図9,11とほぼ同様な構造であることがわかった。



・考察

巣の構造が、以前観た紙の構造に似ていたので、コピー用紙と和紙の便箋を観察して比較した。その結果を次に示す。

蜂の巣の内面 コピー用紙の表面 和紙の便箋の表面
図43 蜂の巣の内面 図44 コピー用紙の表面 図45 和紙の便箋の表面


蜂の巣の内部拡大 コピー用紙の表面拡大 和紙の便箋の表面拡大
図46 蜂の巣の内部拡大 図47 コピー用紙の表面拡大 図48 和紙の便箋の表面拡大


巣の繊維の大きさは、コピー用紙と同程度で、5〜15μmであるが、用紙ではロールされているので素材が圧縮されている。和紙の繊維はこれらより太く、約10〜30μmである。
紙は機械を使って大量に作ることができるが、女王蜂は一匹で、繊維を一個ずつ集め、それに粘液を塗って、接着させる。この一個の巣を作るには、途方もない作業が想像される。生物の子孫を残す努力は、想像以上である。















                               −完−









タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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