■樹木に突き刺す蝉(抜け殻−産卵管と気門)
前の観察で、蝉の抜け殻に、成虫の蝉と同じような口吻があることが分かった。それでは蝉であった産卵管はどうかと調べたくなった。その結果、意外にも、幼虫にも産卵管があることが分かった。まずそれを報告する。 ・幼虫の産卵管 インターネットで、抜け殻を集めて、生殖器の相違から雄と雌の区別をしている記事を見た。採取した三個の抜け殻を調べた結果、雄と雌があることが分かった。
図1は雄の生殖器の外観写真である。図2は背部を切り取り内側(体内)から見た写真である。丸い突起が特徴である。
図3は雌と判断した生殖器の外観写真であり、図4は解体して内側(体内)から見た写真である。雄と同じ突起の下に、指を揃えたような組織がある。 この組織を詳細に見るため、取り出して解体してみた。その結果を図5に示す。
図5で写真左上の数字は解体の順番であり、a,bはそれぞれ、抜け殻外側からと、裏返して内側からの観察を示す。2aの状態で、少しピンセットで押した結果、3aに示すように、中央に別の針が認められた。蝉の産卵管の構造とよく似ているので、それを取り出してSEMで観察した。
図6はSEMの試料台に取りつけたときの光学顕微鏡像である。固定時に三本の針が少し離れてしまった。 図7はそのSEM像で、中央に産卵管らしき組織があり、両側にそれを支える棒があることが分かった。 この像は、前回(樹木に突き刺す蝉(アブラゼミ−産卵管))の図4とよく似ていることが分かった。 さらに拡大した結果を、図8,9に示す。
中央の産卵管は先で割れていて、支え棒にはギザギザが認められた。この結果から、幼虫にも成虫の産卵管に対応する器官がすでにできていることが分かった。羽化前の幼虫は、産卵はしないが、ちょうど哺乳類の子供のように、幼虫の時代から未完成の産卵管が形成されていることが分かった。 ・幼虫の気門 光沢のある茶色の抜け殻の背中に見える白い気管が気になっていた。前から昆虫の気門がどんなものかを見たかったので、抜け殻を使って観察することにした。
図10,11は採取した抜け殻で、背中に白い気管が見える。インターネットで羽化をしている動画を見ると、この気管は最後まで繋がっていて、哺乳類のへその緒のようだ。
図12,13,14は抜け殻を分解して、気管、気門を調べた結果である。図12は抜け殻の背中部を切り取り、腹部を観察した写真で、両側の節の間に白い気門が見える。図13は腹部を裏返して、体内から撮影した写真であり、図14はその拡大写真である。各気門には気管が配管され、気管系を形成している。昆虫はこの気門から空気を取り入れて呼吸している。
図15の左の写真は、図14で見える気管を剥ぎ取り、気門を体内から見た写真である。気管は気門との接続部で丸い管がつぶれていて、通過する空気の量を調整しているようである。図15左の気門に唇のような縦長の穴が見えるが、それが開口している気門である。図15の右の写真は、剥がれた気管の穴を見たもので、気管は円形の筒状であることが分かる。 図12に見える白い気門をSEMで拡大して観察した結果を図16〜21に示す。
気門は、外界からの空気の取り入れ口である。低倍では、花のような形をしていた気門は、高倍では、綿のようなフィルター構造をしていることが分かった。その繊維の太さは50〜150nmである。 図17,18にフィルターに付着した塵のようなものが認められる。 次に、気門を体内から観察した。図15左写真での唇型の膜は針で取り去った。その結果を図22〜27に示す。
内側から見た気門は楕円形で、長手方向から揃った繊維が長径に集められている。繊維は全体としては揃っているが、拡大すると根のように枝分かれしている構造である。図27からも繊維の径は50〜150nmであることがわかる。 この繊維の生え際を知るため、気門周辺を観察した。その結果を図28〜31に示す。
図30,31から、繊維は周辺の壁から生えているようである。特に図31では根元は繊維が太く、束になっている事が分かる。すなわち、長円の壁から、繊維が生え、長径で合わさっている。このように密に生えた繊維がフィルターの役目をしていることが分かった。 気門を観察するために気門につながる気管を壊したが、それを使って気管の内面構造を調べた。その結果を図32〜36に示す。
図32,33でわかるように、観察した気門の近傍の気管が割れた場所を観察した。図34〜36と拡大していくと、気管の内面は、提灯のように、環状の骨組みがあり、その周りを薄い膜が張り付けられている構造であった。骨は直径が約2.5μm、膜の厚さは約0.6μmである。このような構造は、掃除機のホースにも似ている。いずれも管がつぶれなく、自由自在に曲げられる機能になっている。 図13,14で見える抜け殻(幼虫)の体内にある気管は、中の成虫の体外側の気門につながっていた。羽化の間も、幼虫の体外の気門から取り入れられた空気は、幼虫の体内に配管された気管を通り、羽化する成虫の体外の気門を通して空気が導入されていることが分かった。その説明を図38に示す。
羽化したときに、成虫に繋がって抜け殻から出る寸前まで繋がっている気管を見ると、へその緒を思い出す。このような経路で、常に空気を取り込んでいるのである。 以上二編に渡って蝉の抜け殻を観察した結果を報告してきた。ファーブルは羽化前の幼虫を食べてみたと書いてあるが、食べるのではなく、羽化前の幼虫を採取し、幼虫がどのように成虫を体内で育成させるか、すなわち足や口吻などが体内にどのように収まっているか等を調べたい。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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