■樹木に突き刺す蝉(アブラゼミ−口吻4)

前回までの観察で、蝉の口吻の構造を調べることができた。我々が見る蝉の長い口は、断面がC型の鞘状の下唇であり、樹液を吸うときはまずそれを樹木にあてがう。その中に一対の支え棒のような大顎があり、それを前後に動かして樹木に穴を開ける。さらに大顎の間には、断面が半円の樋のような一対の小顎があり、それを突出し、すり合わせて樹液を体内に取り入れていると考えられる。
参照:(樹木に突き刺す蝉(アブラゼミ−口吻3))の図35。
今回は、長い大顎や小顎をどのようにして前後に動かすのかが知りたくて、口吻の元部を調べることにした。
専門の道具がないので、ピンセットと針で口元部を解体してみた。その様子を図1〜3に示す。

口吻と額
図1 口吻と額


図1の@は、蝉の顔の中央にあり、口吻が繋がっている額部の写真である。額の部分はピンセットで剥ぐことができた。額を裏返して内面を撮影したのがAである。口吻が額の内部に入り込んでいるのが分かる。口吻は額の入り口で切断した。Bは切断した口吻の断面を観察した写真である。上部の円形の組織が口吻の鞘(下唇)であり、黒い横に長い組織は、大顎と樹液を導入する小顎である。Bの下部は@の額表面に対応する。

額の解剖1
図2 額の解剖1


図2,3はAの額内面をピンセットで順次解体していった結果である。Cで環状の鞘と額内面の薄い膜組織を剥がした結果、Dになった。Dの上部に円錐状の組織が見え始めた。額と口吻の間にある少し硬い組織をはぎ取ったら、Eの構造が見えた。Eの下部にある口吻と額の接続部には、口吻の鞘内にあった針状の小顎と大顎を束ねる結束爪があり、そこから額に入ると、それぞれが拡げられ二対の円錐状の組織になっていることが分かった。各々の円錐組織は、小顎、大顎に対応し、それらを動かす筋肉と考えられる。
さらに解体して、小顎と大顎の根元の様子を調べた。

額の解剖2
図3 額の解剖2


図3のFは顎以外の組織を剥ぎ取った状態、顎が額に入り込んでいる様子が鮮明に観察できる。Fで見える結束爪の右側を強引に剥ぎ取ると、大顎を爪の外に取り出すことができた。その様子をG、Hに示す。この写真から、小顎、大顎が額内で円錐状の組織になり、それによって、樹液を取り込むときの前後の運動ができるのだと分かった。円錐組織は、おそらく筋肉で、前後運動の動力になっているのであろう。この構造だと、左右の小顎、大顎とも、別々に動かすことができる。左右の大顎を交互に樹皮に叩き込み穴を開け、小顎を交互にすり合わせて樹液を導入しているのであろう。実に巧妙な機能である。

光学顕微鏡観察で、大顎と小顎で樹液を取り込む様子が分かったが、SEMで確認することにした。その結果を次に示す。

口吻の元部のSEM像 口吻の元部断面
図4 口吻の元部のSEM像 図5 口吻の元部断面


図4は図1のAに対応し、下唇の元を観察したものである。それを回転してBに対応する口吻の元部の断面を観察したのが図5である。断面を切り直したので、Bより少し奥の断面を観察している。中央の顎部を拡大すると。

口吻の元部断面拡大 図6の小大顎断面
図6 口吻の元部断面拡大 図7 図6の小大顎断面


図6と7は、顎の断面を拡大した写真で、図7では、環状の小顎とそれを支える大顎が確認できる。
次に、環状の下唇を取り去り、結束爪を剥ぎ取って観察した。

結束爪を剥がした時の顎断面 結束爪を剥がした時の顎平面
図8 結束爪を剥がした時の顎断面 図9 結束爪を剥がした時の顎平面


爪を取ると、小顎対はそのまま残ったが、大顎は外れて両側に移動した。その様子を図8の断面像と、図9の平面像で示す。図10はその拡大像で、一対の小顎は、額内に入ると剥がれ、分岐して各々の円錐状の筋肉につながっている。

小顎の分岐部拡大 口吻元部の拡大光学顕微鏡像
図10 小顎の分岐部拡大 図11 口吻元部の拡大光学顕微鏡像


図5,6,8で気になったのは、顎の下に認められる水滴形状の穴である。口吻の断面観察(樹木に突き刺す蝉(アブラゼミ−口吻2))では認められなかった。そこで図1-@の口吻と額のつながり部分を観察した結果(図11)、接続部分で別の管が出ていることが分かった。図11の矢印に示す管である。これまで顎の束と思っていたが、顎はその下にあることが分かった。残念ながらこの管の役割についてはまだ調べていない。











                               −完−









タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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