■プラントオパール(稲-1)
前回、SEMアートギャラリーで稲の葉の表面に幾何学的模様がある事を紹介した(プラントオパール模様)。NHKのミクロワールドで、土壌から吸収した珪酸が扇形をしたプラントオパールとして蓄積されていることを知った。今回は、それを是非電子顕微鏡で見てみたいと思い、観察したので紹介する。第一回は、扇形プラントオパールが、どこにどのように含まれているかを調べた結果である。 9月末、夏の終わりを惜しみながら、あきる野を散策した。コスモスの花の間に、頭を垂れた稲穂を見つけた(図1)。プラントオパールを確認したくて、一本の実った稲をいただいて持ち帰った。稲穂は褐色に実り、葉はまだ緑色の状態であった。
葉を親指と人差し指に挟んで引っ張ると、何かシカシカする。針状のプラントオパールが引っかかるのであろう。この針状のプラントオパールの観察は後日にして、とりあえず針の先がどちらを向いているかを確認した。図2は葉の両側にある針(図左)と葉の表面にある針(図右)を光学顕微鏡で観察した写真である。いずれも針の先は、葉の先の方向を向いている事を確認した。確かに指でなぜると、葉先から茎の方にこする方が、裏面より表面のをこするが方が針に刺さるような感触がある。 その表面と裏面の光学顕微鏡像を図3と4に示す。
顕微鏡写真では、表面の方が葉脈がはっきりしている事が分かる。いずれの写真でも、右から3分の1の位置にある帯状の構造が中央の主脈である。主脈は裏面に大きく膨れている。この葉を切り出し、最初に横断面を観察した。
図5は、横断面を観察するために試料台(直径15mm)にセットしたようすである。図は金のコーティング後の試料である。図6はこの試料を上方からSEM観察した低倍率の横断面写真である。断面像の上方が表面で、葉脈が周期的にある事が分かる。 このような横断面から扇形プラントオパールを探した。
プラントオパール(POと略す)AやBで示すように、扇形の塊が見つかった。大きさは約50μmくらいである。 切断時に表面から少し浮き上がったPOがあった。
PO-Cでは、形状がかなりよく分かる。底部は栗の底部と同じような形状をしていて、多面体の曲面をしている。 プラントオパールは、いずれも表面側にある事が分かった。表面のどのような構造の中にあるのかを調べるため、試料傾斜をして調べた。図15〜18はPO-Dを横断面から見た像である。
次に、試料を傾斜して、PO-Dを斜め表面側から観察した。その結果を図19〜22に示す。 低倍率ではPO-Dの位置を矢印で示した。
表面では、波状凹凸の凸部には、8の字並列畝がある。その間の谷部になだらかな小山があり、その下に扇形プラントオパールがある事が分かった。次に、裏面との関係を調べるため、反対に傾斜して、裏面側から観察した。
その結果、プラントオパールは表面では8の字畝の間の谷部にあったが、裏面では畝部にある事が分かった。表面の8の字並列畝の裏面は、同じく8の字構造であるが、裏面では谷部になっている事が分かった。 扇形プラントオパールが、表面の8の字並列畝の中間にある事が分かったので、もう一度、光学顕微鏡でその場所を確認した。
図25は稲の歯の表面を光顕で拡大して観察した結果である。畝の間に、白い綿のようなものが見える。その部分にプラントオパールがあり、ガラス構造であるため、白く光って見えるのだろうと予想した。光学顕微鏡下で、谷間の白い綿構造がある部分にナイフを入れて、縦断面を作成した。その結果を図26に示す。白い部分の断面には、光学顕微鏡では透明なガラスの粉のような粒が見えたが、撮影したら透明なためか明確な像は得られなかった。対応するSEM像を図26の下部に示し、拡大像を図27,28に示す。
透明なガラス粒に見えた部分に、今まで見たプラントオパールがあることが分かった。光学顕微鏡の解像度が足りないが、プラントオパールは、裸眼で見る透明なガラスの粉と同じようである事が分かった。図2で観察した針状のプラントオパールも透明でガラス質に見える。 次に図26の横の縦断面視野を示す。
図30〜32で見たプラントオパールは、図14で見た底部の多面体構造が良く見える向きをしている。
他の視野Jでは、列車のようにプラントオパールが連なっている。
プラントオパール表面は、図31で分かるように薄い膜で覆われている。連なっているPOも皆薄い膜で覆われているため、扇形の方向が判断できないが整然と連なっている事が分かる。 扇形のプラントオパールの形をもう少し正確に把握するため、図14のPOをステレオ観察した。
図37は20度異なる方位から観察したステレオ写真である。ここで良く分かったことは、扇形の面は、窪んでいることである。横の面もわずかに窪んでいる。乾燥させた影響かもしれない。これらの観察から分かった扇形のプラントオパールの形状を図38に図式化した。 この構造であると、横面から見ても、底面から見ても、大体長方形に見える事が分かった。 図27,8で観察したPOは、側面から見た像に見える。図31,32のPOは底面から観察した像に近い。このように見ると、ほとんどの数十μmの大きなプラントオパールは、図38で示した形状をしていると説明できる。 今後は、さらに図31,32の下部に見える細かいプラントオパールと考えられる粒や、表面にパン粉のように付着している粒子がプラントオパールかなどを調べていきたい。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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