■蕎麦を味わう(その2)

そばの実を割る

(その1)では、そばの実について調べたが、次にそれを挽(ひ)いて作るそば粉に注目した。
まず、そばの実がどのように割れていくのかを調べるため、ピンセットの平たい部分でぬき実を押し割ってみた。それを光学顕微鏡で調べると図1のように、大きな破片が6個と茶色の中破片(左下)、さらに白い小破片があった。色と厚さから、破片Aが胚乳、Bが胚芽、Cが甘皮である事が分かった。このように、まず種類別に割れていく事が分かった。

押し割った実の部分 胚乳片A1部の拡大観察像
図1 押し割った実の部分 図2 胚乳片A1部の拡大観察像


この試料をSEMで拡大して観察した。図2は胚乳片A1の拡大像で、写真の上部に胚乳部の表面構造が、下部に断面構造が見える。胚乳全体もこのように薄い膜で覆われていることが分かった。
次に胚芽B1とB2を拡大して観察した。

実の横断面の光学顕微鏡像 光学顕微鏡像と同視野のSEM像
図3 破片B1部の胚芽表面 図4 破片B2の胚芽断面(下部)と表面


図3は胚芽全体を包む膜の表面である。接触する胚乳の球状の澱粉に押されてできたと考えられる凹凸が見える。図4では上部に胚芽の表面が、下部に胚芽破断された断面構造が見える。断面には、その1の図13で観察した結果と同じ胚芽の特徴ある構造が見える。
次に、甘皮C1とC2を観察した。

甘皮外側のC1部 甘皮内側のC2部
図5 甘皮外側のC1部 図6 甘皮内側のC2部


甘皮のそりぐあいから、C1は外側、C2は内側である。外側は、その1の図6で観察したように凹凸が激しい形状をしている。内側は、比較的滑らかである。

そば粉の観察

さて、そばの実を挽いたそば粉(そばを打つ原料)はどんな形をし、甘皮や胚芽はどのようになって混じっているのであろうか。市販されている、石臼挽きのそば粉を買い求め、それをカーボン両面テープにまぶして観察した。まず光学顕微鏡で観察した。

そば粉の光学顕微鏡像視野P そば粉の光学顕微鏡像視野Q
図7 そば粉の光学顕微鏡像視野P 図8 そば粉の光学顕微鏡像視野Q


全体的には、0.1mm以下の白いまたは透明な粉が散在している。特徴的なのは、ところどころに他の粒子に比べ少し大きな(0.1〜0.2mm)茶色、薄緑色(写真のコントラストを強く処理してある)の粉があることである。これが甘皮や胚芽ではないかと予想した。同じ視野をSEM観察した。

視野P部のSEM像 視野Q部のSEM像
図9 視野P部のSEM像 図10 視野Q部のSEM像


白く見えた粒子は角張っていて、図2または、その1の図19,20で見た胚乳の多角形群がばらばらになったと考えられる。

視野P部で注目した粉に印字
図11 視野P部で注目した粉に印字


詳細を調べるため、図11に記入した色の付いた粉(a〜f)と代表的な胚乳粉(g〜h)に注目して拡大して観察した。

粉aの拡大像 粉bの拡大像
図12 粉aの拡大像 図13 粉bの拡大像


粉cの拡大像 粉dの拡大像
図14 粉cの拡大像 図15 粉dの拡大像


粉eの拡大像 粉fの拡大像
図16 粉eの拡大像 図17 粉fの拡大像


粉gの拡大像 粉hの拡大像
図18 粉gの拡大像 図19 粉hの拡大像


光学顕微鏡で色が付いていた粉a〜fは、表面形状や厚さなどから、b,d,fは甘皮、a,c,eは胚芽が挽かれた破片と考えられる。またいずれの粉も、光学顕微鏡像では色が付いていないが、図13,15の右上に見られるような小さな(〜20μm)甘皮または胚芽の破片も認められた。 図18,19から、胚乳は多角形の単位で分離され、中には図18の右上のように、多角形が砕かれ、澱粉が露出しているのがある。また図17で分かるように、球状澱粉が数個の塊が全面に散在していた。
以上、石臼で挽かれたそば粉を光学顕微鏡と電子顕微鏡で観察をした結果、実に含まれる甘皮、胚芽、胚乳、胚芽が挽かれて粉になった様子をとらえる事ができた。胚乳は光学顕微鏡では白または透明に見え、SEMで拡大観察をすると、多角形(50〜100μm程度)の澱粉の袋ごとに分離され、さらにそれが粉々になった球状の澱粉粒子が散在していることが分かった。甘皮と胚芽は、一部は50〜200μmの大きな破片として残り、これらは光学顕微鏡では茶、または薄緑色に見える。さらに小さく挽かれた破片は、光学顕微鏡では識別できないが、散在していることが分かった。



                                       −その2完−





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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