■蕎麦を味わう(その1) タイニーカフェテラスに、蕎麦(そば)打ちの腕利きである熊田さんが立ち寄ってくださいました。熊田さんはそのホームページ「蕎麦打ちの科学」からも分かるように、蕎麦打ちを科学的に解明しながら、よりおいしい蕎麦を目指して研究されています。お話によると、そば粉の種類や挽き方によって、出来上がりに随分差があるとのこと。今まで使ったそば粉がどのように違うのかを光学顕微鏡で調べてこられたが、もっと拡大して詳細を見たいとのこと。熊田さんのお話から、そば粉を電子顕微鏡で観察するお手伝いをした。かなり奥深いことなので、その詳細は熊田さんのホームページを訪問してください。 そばの実の観察 そばが大好きな文ちゃんとしても、そばとはいったいどんな構造をしているのかを知りたくて、まず、そばの実から観察することにした。 そばの実は、店先でそばを挽いているそば屋さんからいただいたものを用いた。 まず、そばの実の外観を。
図1の左側は、そば殻が付いたままの実(玄そば)である。一般には、そば殻を取り除き、右のような実(ぬき実)を挽いてそば粉を作る。図2は玄そばの横断面の光学顕微鏡写真である。はじめは良く切れるナイフで実を切ってみたが、よく見ると内部構造がつぶれていた。そこで、ニッパーを使って割ったところ内部構造が良く見えた。破断によって硬さの差から組織が良く見える事がある。参考書を見て、構造の名前を記入した。胚乳は白く光って見えるが、胚芽はS字形で薄いクリーム色をしている。甘皮は黄土色、物によっては薄い緑色をしている。そば殻はこげ茶色で紫かかったものもある。 ぬき実を破断して、構造が比較的壊れていないものを用いて横断面の観察をした。まず横断面全体を光学顕微鏡で撮影し、それに対応する電子顕微鏡(SEM)像を撮影した。
20倍の光学顕微鏡像では、全体の解像度が不十分なだけでなく、凹凸があるとボケる部分ができる。他方電子顕微鏡像は解像度が高いだけでなく、焦点深度が深いので、どの部分にもピントがあって全体を見るのに適している。 次に、図4上部の甘皮部を拡大しながら詳細をSEM観察した(図5〜8)。
つぶつぶの胚乳の周りを甘皮が取り囲んでいる。甘皮層は、よく見ると二枚の皮からできている事が分かった。このことは今まで調べた文献には見られなかった。外側の皮は波うっている硬い皮のようで、外部から実を守っている外壁である。下の皮はより厚く、内部の実を守っている内壁のようである。 甘皮には多くのたんぱく質(40%以上)が含まれているようだが、図8で見る甘皮断面の粒々構造がたんぱく質を含んでいるのであろうか。 次に実の中央部の胚芽部を拡大しながら詳細を観察した(図9〜12)。
この場所は、二枚の胚芽が重なっているところである。図11,12でその境界が見える。胚芽全体は5μmくらいの薄い膜で覆われている事も分かった。胚芽の断面は何か周期的な構造になっているが、表面は膜に包まれて、比較的滑らか (図10)である。 次に、実の右側に横に伸びる胚芽部の詳細を観察した。
ここでも、二層の胚芽が薄い膜に覆われている事が分かる。図14では、図12で見た周期構造がさらにはっきり見える。20μmくらいの周期構造はなんだろうか。しかもそれには1〜2μmの細かい縞構造がある。胚芽は30%以上のたんぱく質を含むようだが、これらの構造とたんぱく質は関係があるのか、それとも澱粉の構造なのか。 胚芽の先端はどうなっているのだろうか。それを調べたのが次の写真である。
末端は特別な形ではなく、図15では他の層に沿って片刃のように薄くなり、図16では両面からだんだん薄くなっていた。 観察した二枚の胚芽の形状を全体の断面像に色分けして書き込んだ。その結果を次に示す。 甘皮は実全体を取り巻いていた。
さて、そばのもっとも主成分である胚乳を観察した結果を図18〜21に示す。低倍では、水晶石のように角柱が甘皮から成長しているように見えるが、拡大していくと、50〜100μmの大きさの多角形の袋に、5μmくらいの球状の澱粉がびっしり詰まっている事が分かった。
胚乳も多角形の周りは、薄い膜で覆われ、図20の中央部では、その膜が破れて中の球状の澱粉がこぼれ出ている。 そば殻については、図2の試料の矢印部を観察した例を図22,23に示す。
実の三角形の頂点部分では、そば殻はわらぶき屋根のように尖っているが、甘皮は丸みをおびている。従って頂点の部分では、甘皮部分とそば殻の間に隙間ができている。その間を覗くと図23のように、そば殻の内面は繊維状の組織がある事が分かった。その一本が破断面に引き出されている。繊維組織は殻を強くする仕組みであろう。 −その1完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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