■ 庭に訪れたヤマトシジミチョウ4(鱗粉の輝き)
前回の観察で、青紫色に輝く鱗粉を突き止めた。今回は、その鱗粉がなぜ輝くかを調べる事にした。 以前、モルフォチョウを観察して翅の棚構造が光を受けると強く反射するという構造色効果を知った。 http://www.technex.co.jp/tinycafe/discovery02.html ヤマトシジミも同じような効果によるものかを調べることにした。
この観察の結果、翅の付け根の方向からの照明のみで、鱗粉が青紫色に輝くことが分かった。 次にその理由を調べた。まず翅を断面方向から観察して、鱗粉がどの方向を向いているかを調べた。
図5は顕微鏡下で翅を断面方向から観察した結果で、右側が翅の付け根方向である。左方向に伸びている片が鱗粉を横から見た像である。 鱗粉の傾斜は、平坦ではなく翅の面に対して30度~60度で立ち上がっている事が分かった。 一方、顕微鏡下で観察した時の照明は試料台に対して約45度(30度~60度)であることから、鱗粉の向きと照明方向との関係を模式的に描くと図6のようになる。 すなわち、鱗粉の面にほぼ直角方向から照明すると鱗粉が輝いて見えることが分かった。 そこで、輝く鱗粉の構造を詳細に調べた。まず電子顕微鏡内で鱗粉試料を順次傾斜して撮影した。その結果を図7に示す。
傾斜をして観察すると、ちょうど障子のような構造で、桟にあたる格子状の高さのある構造の底に障子紙のような構造がある。 ただしその障子紙にの面に対応する部分には小さな穴が沢山開いている。 それをステレオ観察すると
ステレオ観察でも、深い桟の形状や深さが分かる。 鱗粉の中に、何かの衝撃で一部の構造が壊れている部分があったので、そこを詳しく観察した。
この観察から、リッジと呼ばれている桟の部分にはモルフォチョウで観察したような複雑な多層構造は認められず、 また障子紙に当たる底面にも積層構造などは認められず、かなり単純な構造である事が分かった。 また、底面が傷つき、めくれている場所があった。その部分を観察した。結果を図13,14に示す。
この観察から、底面の小穴の開いた板は、さらに下地の薄い接着テープのような膜に密着されている事が分かった。 モルフォチョウのような多層構造が認められなければ、ヤマトシジミチョウはどうして青紫に光るのであろうか。鱗粉に空いた穴を詳細に観察した。
穴の大きさは、図16、17から、直径がおよそ35nmから450nmである事が分かった。 一方、可視光の波長を調べると、赤が約700nm、青が約470nm、最も短い紫が約415nmである。 この結果から、シジミチョウの鱗粉底面全体に開いている穴の径は可視光より小さいことが分かった。 モルフォチョウの構造色の説明で大変参考になった大阪大学名誉教授の木下修一博士の解説で、シジミチョウの構造色について、 「膜に多くの穴がランダムに空いた構造はシジミチョウなどの鱗粉で報告されている。光の波長より十分小さい穴の場合、 チンダル現象のように振動数の4乗に比例した散乱過程が主要な効果として現れる」と説明されている。 すなわち図18で説明するように、波長が長い赤や黄色の光は空気中を透過しやすいが、短い波長の青や紫の光は散乱されやすく、 結果的に我々の眼には青紫色に輝いて見える事が説明できる。この現象は、空が青紫色に見えるわけと似ている。 http://www.syoshi-lab.sakura.ne.jp/scvol2pdf/kinoshita.pdf 図17で、主な穴径は青や紫の波長の10分の1くらいであり、青や紫の光はこの穴によって散乱されることが分かる。すなわちシジミチョウはその鱗粉に空いた波長の10分の1くらいの小さな穴により青紫の光が多く散乱され、その色の散乱光が見える事が理解できた。また図6や図18で説明した、光が鱗粉面に直角に当たるほど青紫の散乱光が強いのは、小穴による散乱が効果的である事からも説明できる。 それにしても、チョウがどうしてこのような構造色を発するような高度な構造が持てたのだろうか。 ―完― | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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