■ 庭に訪れたヤマトシジミチョウ3(鱗粉の種類)

シジミチョウの翅がどうして薄紫色に輝くかが不思議である。 この調査のため、まず鱗粉にどんな種類があり、どんな構造をしているかを調べる事にした。

図1 一枚の翅 図2 図1の拡大 図3 図2の強拡大す
図1 一枚の翅 図2 図1の拡大 図3 図2の強拡大


図1は後翅の一枚である。前翅と重なる部分以外の鱗粉は輝いている。図1の中央部を光学顕微鏡で拡大した写真が図2である。 図3はさらに拡大した写真で、私の使っている光学顕微鏡(倍率x60)の限界である。 全体に薄紫の鱗粉が並び、その間に高さ約3分の1の薄黄緑色に光る構造が平行に並んでいるのが分かる。 光る鱗粉列の間には黒い線状の仕切りがある。 これらの色の情報を基に、さらに詳細の構造を調べるため、SEM観察した。

図4 鱗粉の並んでいるようす 図5 図4左部の拡大像
図4 鱗粉の並んでいるようす 図5 図4左部の拡大像


図4は代表的な光る翅の表面の電子顕微鏡(SEM)像である。図2で見るように鱗粉は横に平行に並んでいる。 その左上部の拡大像を図5に示す。鱗粉は大きく分けて三種類あることが分かった。まず列の間にわずかに見えるAタイプ。 これは光学顕微鏡像の黒い部分と考えられ、薄紫の鱗粉の下地になっていると考えられる。この鱗粉の先には4,5個の凹凸があるのが特徴である。 一番多く見えるのがBタイプである。この鱗粉は列の大部分を占め、薄紫に光る鱗粉だと考えられる。この鱗粉の先端部はほぼ円弧の形をしている。 またCタイプの鱗粉は、光学顕微鏡像で薄黄緑色に見える鱗粉で、他の物よりやや小さく、B列の間に並んでいる。 図5から、Cタイプは鱗粉全体に縦筋が入っているのが分かる。各鱗粉の幅は、Aが約42μm、Bタイプが約50μm、Cタイプが約33μmである。
次に各タイプの鱗粉を拡大して観察した。
Aタイプの鱗粉を順次拡大して観察した結果を図6~9に示す。

図6 鱗粉Aの拡大像 図7 図6の拡大像
図6 鱗粉Aの拡大像 図7 図6の拡大像


図8 図7の拡大 図9 図8の拡大
図8 図7の拡大 図9 図8の拡大


Aタイプの鱗粉は、梯子状の構造をしている。その一マスはおよそ0.5x1.3μmである。
マスの中は下地に繋がるような不規則な組織がある。

次に、輝く鱗粉Bの観察結果を図10~13に示す。

図10 タイプBの鱗粉 図11 図10の拡大
図10 タイプBの鱗粉 図11 図10の拡大


図12 図11の拡大 図13 図12の拡大
図12 図11の拡大 図13 図12の拡大


Bタイプは、周期約1.7μmの縦方向の頑丈な桟があるが、横方向の桟は周期0.8~1.5μmで細く湾曲した桟がある。 また二重の膜のようで、下の膜は約30~300nm径の穴が開いている。上の膜は大変不規則で0.5~1μmの窓ができている。

次にタイプCの鱗粉について拡大して観察した。結果を図14~17に示す。

図14 Cタイプの鱗粉 図15 図14の拡大
図14 Cタイプの鱗粉 図15 図14の拡大


図16 図15の拡大 図17 図16の拡大
図16 図15の拡大 図17 図16の拡大


タイプCの鱗粉には、約2.5μm周期で縦桟があり、その間に大きな2μmくらいの穴が開いている事が分かった。 しかしさらに拡大すると、図16,17で分かるように、穴の中は二重の繊維のような構造で、その中にタイプBより小さい100nm以下の穴が開いていることが分かった。

鱗粉の裏面も観察したくて、鱗粉をカーボン接着テープ上に適当に散りばめ、それを観察した。 図18はその例で、光っている鱗粉と光っていない鱗粉がある。その視野のSEM像を図19に示す。図19に記載した番号の鱗粉を拡大して観察した。その結果を図20~27に示す。

図18 カーボンテープ上に散りばめた鱗粉 図19 図18に対応するSEM像
図18 カーボンテープ上に散りばめた鱗粉 図19 図18に対応するSEM像


図20 図19の鱗粉1の拡大像 図21 図20の拡大像
図20 図19の鱗粉1の拡大像 図21 図20の拡大像


図22 図19の鱗粉2に拡大像 図23 図22の拡大像
図22 図19の鱗粉2に拡大像 図23 図22の拡大像


図24 図19の鱗粉2の拡大像 図25 図24の拡大像
図24 図19の鱗粉2の拡大像 図25 図24の拡大像


図26 図19の鱗粉3の拡大像 図27 図26の拡大
図26 図19の鱗粉3の拡大像 図27 図26の拡大


光っている鱗粉1はBタイプで、その表面像の図20,21は図10~13に似ている。 ここで注目したいことは、鱗粉1,2,3は薄紫に光るのでBタイプであるが、鱗粉2と3は図22~25で分かるように構造が認められず、鱗粉1とは異なっている事が分かった。 すなわち鱗粉2と3は裏向きに張り付いている事が分かった。 裏向きではあるが、鱗粉1と同じように光っていることから、下地が薄くて、裏側から光が入っても、表からと同様に光ることが分かった。 このことは予想外であった。
図26,27はAタイプの鱗粉で、光らない。
この観察でBタイプの鱗粉の表面と裏面の構造が分かった。裏側には薄い下地があり、それにはほとんど凹凸の構造が認められなかった。

図18とは別視野に、タイプCの鱗粉を見つけた。 その視野の光学顕微鏡像を図28に、そのSEM像を図29に示す。矢印で示したのがCタイプの鱗粉である。 それは拡大像である図30,31からも確認できる。図28から、Cタイプの鱗粉は薄緑色に光っている事が確認できた

図28 タイプC(矢印)を含む視野 図29 図28のタイプCのSEM像
図28 タイプC(矢印)を含む視野 図29 図28のタイプCのSEM像


図30 図29の拡大像 図31 図30の拡大像
図30 図29の拡大像 図31 図30の拡大像


タイプA及びCの鱗粉の裏面構造も知りたく、次の方法で観察した。 まず、翅を接着テープに接着する。その上に別の接着テープを押し付けて引きはがす。 すると翅から鱗粉が剥がれ、鱗粉の裏面が現れる。剥がしたテープの表面像を図32~35に示す。

図32 下地面の鱗粉列 図33 図33中央の拡大
図32 下地面の鱗粉列 図33 図33中央の拡大


図34 図33の左側の鱗粉 図35 図34の中央部拡大像
図34 図33の左側の鱗粉 図35 図34の中央部拡大像


拡大した図34,35は、形からCタイプと判定した。 しかしそのSEM像は図30,31とは異なり、裏面である事が分かる。その裏面には、小さな穴列がある事が分かった。 孔の大きさは、約80~200nmである。

別の視野でAタイプの鱗粉の裏面を観察した。

図36 Aタイプの鱗粉の裏面 図37 左上の鱗粉の拡大
図36 Aタイプの鱗粉の裏面 図37 左上の鱗粉の拡大


図36は上の方法で剥がした表面の写真である。右上の鱗粉は剥がした際に、下地から剥がれ、再付着した鱗粉で、表面が出て縦筋が見える。 他の鱗粉は裏面が現れている。図37から、タイプAの鱗粉の裏面には構造が無い事が分かった。

以上の観察の結果、光の照射で輝くのは、タイプBとCの鱗粉で、タイプBは最も強く薄紫色に輝く。 表面の構造は、タイプAは梯子状の比較的簡単な構造であるのに対し、タイプB,Cの表面には複雑な構造があり、いずれにも数十~数百nmの穴が開いている事が分かった。

次回、このような構造を持つ鱗粉がどのようにして輝く性質があるかを考察したい。


                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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