■ 庭に訪れたヤマトシジミチョウ2(足の先)
最近、図鑑から、ヤマトシジミのオスの前足が退化しているという情報を得た。早速前回捕まえたオスとメスの足先を観察して比べてみた。その結果を紹介する。
図1,2はメスとオスのシジミチョウの前足、中足、後足を抜き取り並べた写真である。両方とも前足が短いことが分かる。 特にオスの前足は短くふ節が一個足りないのが分かる。 前足をどのように使っているかを調べるため、ガラス瓶に入れてガラス面に留まっている様子を瓶の表面から撮影した。 その結果を図3に示す。
ガラス面に中足と後足で留まっていて、前足は折りたたんで使っていない事が分かった。前足は留まるのには役に立たないのであろう。 メスとオスの前足の先端部の拡大写真を図4,5に示す。 メスの足には二本のハの字に開いた爪と、その間に爪間盤が認められるが、オスでは爪は一本で、爪間盤は認められない。 詳しく調べるため、両者の足をSEM観察した。 ・メスの足先 まずメスの前足を、倍率を上げながら観察した結果を図6~10に示す。
メスの前足では、両方に広がった鋭い爪があり、その間に爪間盤がある事が分かった。図9で分かるように、爪の下部には長い剛毛が生えている。 これは食べものの味などを感知する感覚毛であろう。また爪間盤は、着地するときのダンパーであり、ガラス面などを登る時に便利な一種の接着機能にもなっている。 さて、他の足はどんな形をしているのだろうか。
図11、12はそれぞれメスの中、後足の先端部を撮影した結果である。爪、爪間盤、感覚毛のようすは前足とほぼ同じである事が分かった。 ・オスの足先 退化したオスの前足を順次拡大して観察した。その結果を図13~17に示す。
図13から、オスの前足はふ節が短いことが分かる。また爪は一本で、先が少し前に曲がり、爪の表面にも微毛が生えている。 爪というよりはふ節の延長である事が分かる。 爪の曲がりを見るために斜めから観察したが、これを回転してほぼ正面から観察した結果を図18~22に次に示す
先端部には、メスの足先と同じように感覚毛は沢山あるが、爪間盤はない事が分かった。 すなわち、オスの前足は体を固定する役目はしないで、エサを探る役目をしている事が分かった。 オスの中足、後足についても観察した。その結果を図23,24に示す。
これから、オスの中、後足には広がった爪とその間の爪間盤もあり、メスの足とほとんど変わらない事が分かった。 この形状は2008年1月に「御足を拝見します(アリ)」で報告したアリの足先に非常に似ている事が分かった。 それにしても、どうしてオスの足は退化したのであろうか?文献を見てもその明確な説明はなかった。 体が軽いから、体を支えるには4本の足で十分で、前足は、退化というよりエサを探すことだけに使う様になったのかもしれない。 それは我々人間も四本足から二本足で立つようになり、手は別の働きに使っているのと似ているのかもしれない。 次に爪間盤の構造について少し考察をする。 図10、25、26は爪間盤を拡大して観察した写真である。 いずれの爪間盤もUの字をした組織があり、それがちょうど猫の肉球のように柔らかく、しかも下地と密着する機能を持っていると考えられる。 ガラス面に留まれるのも、この組織によると考えられる。このU字組織の後方から一本の毛が伸びているのが気になった。 なんの働きをしているのだろうか? U字組織にわずかに触れているところから、U字組織が下地に接触した時の様子を感知する感覚毛ではないかと思う。 これについては文献にも見当たらないので、想像止まりである。
随分前にモンシロチョウを観察したが、そのとき使ったオスの個体が残っていたので、その前足を観察した。その結果を図27,28に示す。
このオスのモンシロチョウの前足には二本並んだ爪が左右に広がって付いている。かなり強靭で、葉っぱなどにつかまる力も強いと思う。 蝶といっても、その足の先端部の構造はかなり異なっていることが分かった。今後、また御足を拝見シリーズ、をやってみたい。 ―完― | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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