■ 庭に訪れたヤマトシジミチョウ1(複眼と触覚)
今年の夏は、異状に暑い。6月下旬、庭にひらひらと舞う物を見た。庭に下りてよく見ると、光沢のある翅を羽ばたかせて舞うチョウであった。 これがシジミチョウかなと、虫取り網で捕獲した。今回は、このシジミチョウを調べる事にした。 図鑑から、このチョウはヤマトシジミであることが分かった。このチョウの食草はカタバミであるとのこと。 我が家の庭にはカタバミが生えていて、その花を以前観察した。 それを求めて飛来してくるのだ。非常にか弱い虫なので、とりあえず、一週間で10頭を捕獲して準備した。それを使って、各構造を観察することにした。
捕獲したシジミのほとんどが、翅の上面が濃い青色で輝いていた。一頭だけが上面が黒くくすんだ色をしていた。 図鑑から、翅が青色で輝くのがオスで、くすんだ黒色の翅はメスである事が分かった。 両者とも死んだときに翅を腹側に折り曲げ、上面が見えるようになっているのを選んだ。 それらの蝶のデジタルカメラ像を図1~4に示す。図1はオスであり、図2はメスのシジミである。 翅の上面の色模様が明らかに異なる事が分かる。体長は約10mm、翅の長径は約15mmである。
図3はオスのシジミが翅を背側にそろえた状態であり、翅の下面が見える。メスは一頭しか捕獲できなかったので、図4に示すように、翅を切り取って並べた。 翅の下面の模様はオスとメスはほとんど同じである。 ・複眼
図5はシジミチョウの複眼部のデジタルカメラ像である。以前にスジグロチョウで観察した偽瞳孔がこの蝶でも見える。そこでは偽瞳孔が見える理由を考察した。 図6は複眼部のSEM像である。この視野を順次拡大して撮影した像を図7~12に示す。
図7,8では複眼に詰まっている個眼列が認められる。また、ところどころに毛が生えている事が分かる。この毛は異物が付着することから守るためであろうか。 図9,10では個眼が正六角形であることが分かる。個眼の大きさはほぼ15μmである。 図11,12は、個眼表面の拡大で、表面にはさらに細かい構造があることが確認できた。 これはスジグロチョウでも観察した。 次に複眼の断面を観察するため、針で一部を壊して断面を作り観察した。
図13は破断した部分のSEM像である。破断面を順次拡大した像を図14~16に示す。
図16から、個眼表面の凹凸は、約160nmのピッチで約320nm長さの突起物列である事が分かった。 可視光の波長が360~830nmである事から、紫外線領域の検出機能があると考えられる。 図17,18は複眼の断面を観察した結果である。
複眼は約6μm厚さの組織からできていて、その断面は約150~250nm厚さの多層からできている事が分かった。 破断面の中に、個眼の境界から破断されている視野が見つかったので、その部分を観察した。結果を図19~22に示す。
個眼は丁度我々の歯が歯茎に埋まっているような様子である事が分かった。しかも歯に対応する個眼の側面にも、上面と同じように突起がある事がわかった。
個眼側面の細かい凹凸構造は、上面と同じ周期や大きさである事が分かった。 ・触覚 複眼の上部から上に二本伸びているのが触覚で、その長さは6~7mmである。 オスとメスの触覚先端部の光学顕微鏡像を図1,2に示す。
メスは一頭しか検体が無いが、オスとメスで触覚の形ほとんど同じである事が分かった。オスとメスで何か異なる構造があるのではと、二種類とも観察した。 オスの触覚を拡大しながら観察した結果を図25~30に示す。センサーと思われるコーン型の突起が多く並んでいる。
同様な方法で、メスの触覚も観察した。その結果を図31~36に示す。 メスの触覚の取り出しで、少し痛めてしまったため、SEM像も先端部と根元部の明るさが異なってしまった。
メスの触覚はオスよりコーン型のセンサーの数が少ないが、個体間の差も考えられる。全体として、ほぼ同じ構造をしている事が分かった。 今回は複眼、触覚の観察した結果を報告したが、オスとメスの前足の形状の違いや、なぜ翅が鮮やかな光沢を示すかなどを次に調べ、報告したい。 ―完― | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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