■ 南天の実が生るまで
我が家の庭にはいつの間にか何本もの南天の木が育っている。鳥が種を運んでくれたのかもしれない。特に家の北側のスペースには垣根のように並んで育ち、毎年赤い実をたくさんつける。 南天は難を転ずるともいわれているので、毎年門松の代わりに南天を飾っている。 南天の実はあまり美味しくないようで、正月のころまでは鳥は食べない。しかし一月下旬を過ぎると、エサが無くなくなるためか、鳥が見事に実を食べてしまう
南天は、6月初旬に蕾を持ち、6月末には花が咲き始める(図2)。やがて受粉をして子房が膨らみ始め、7月には球状の実に育つ。10月になると緑色の実が少しずつ赤みがかり、11月には鮮やかな赤い実になる(図1)。 まず、デジタルカメラで撮影した6か月の成長の様子を紹介する。 ・南天の蕾から種ができるまで
図3は6月初旬の蕾とその断面像である。中央に子房があり、その両側にはまだ袋に包まれた雄蕊がある。この段階では、花粉は露出していない。したがって子房の中に認められる二つの像は受精した胚珠ではないかと思う。
図4はさらに膨らんだ蕾の断面写真である。断面を見る限り受精はしていないようだが、子房の中には かなり形がはっきりした円形の組織が二つ認められる
図5は開花した状態で、柱頭ではおそらく受粉している。子房の断面では二つの粒状の組織が認められる。たぶん受精した胚珠ではないか。
図6はさらに成長した子房とその断面である。意外にも、図5で観察した二つの粒状構造が変形して密着をしている。
図7は子房が球状に成長した状態である。その内部は、図6で密着した粒が合体して一つになっているように見える。
赤みかかった実の断面では、上下に二つの白色の蓋のような構造が認められる。これが種の源の胚と胚乳であろう。周りのやや黄色かかった柔らかそうな組織は果肉だろうか。
図9は赤く染まった南天の粒とその断面である。断面では白い蓋状の胚と胚乳組織がはっきり見える。 ・SEMによる蕾の断面構造の観察 まず図3で観察した初期の蕾の断面の同一試料をSEM観察した。その結果を図10~15に示す。
図12は雌蕊の柱頭部である。花粉が付着できるように、細かい凹凸が認められる。 図14はまだ受精していない胚珠部と思われる。図15で見るように、小さな粒状の組織が詰まっている。 図16~19は図5で観察した受精後と考えられる子房のSEM像である。
図17では受精した二個の球状に成長した胚珠が観察できる。図18は先端の柱頭部である。図19はさらに拡大して見た花粉が付着している部分で、部分的に花粉が雌蕊と反応している部分がある。 図20~23は、図9で示すような向かい合った蓋状の組織に成長した南天の縦断面をSEM観察した結果である。
図20、21では、果肉と考えられる中央部分と上下の蓋状の胚と胚乳組織が認められる。蓋状の組織を拡大して観察したのが図22と23である。図23で分かるように、細胞がびっしりと詰まっている事がわかる。 一連の観察が終わったころ、南天は真っ赤に実っていた。南天の種はどんな形をしているかを知りたくて、少し乾燥させて観察した。
図24は乾燥させた南天を図9のように縦断面に切り取り、見た写真である。図9で見た白い蓋状の組織は残り、黄色の部分は萎んでいた。残った硬い部分は種と考えられる。乾燥した南天の赤い皮をむいたら、二つの蓋状の少し黄色の種が現れた。それが図25である。図25は上下に合わさった蓋状の種である。図24は合わさった蓋の縦断面なのでその形状は理解できる。図25のように、ほとんどの南天の中には2個の種があった。例外として3個、または1個の種が含まれているのもあった。 後日、この種を植えて、芽が出て育つ様子も是非観察したい。 なお、この観察で植物学が不得意な私は、各部位の名前がなかなか判定できなかった。そこで、植物学の権威者である埼玉大学の金子康子教授に教えていただいた。ありがとうございました。 ・南天に見つけた小さな発見 南天といえば、昔デジタルカメラで撮影した写真の事を思い出した。庭で見つけた小さな発見です。
雨上がりの南天に雨露が垂れ、風情がありました(図26)。近づくと露に何かが写っていました(図27)。
さらに近づくと建物らしきものが写っていました(図28)。その写真をさかさまにしてみると、露の向こうに、隣の家が写っていました。露は凸レンズになり、遠くの景色がさかさまに見えるのでした。 図29はさかさまにした露の中に見える画像と、後方から南天と後に見える家を撮影した写真を比較したものです。自然の中に、面白い現象を見つけました。 ―完― | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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