■ 道端に咲く可憐な花7(アンドロサセ)

最近は庭に見られる雑草に注目し、それを抜き取らないで育てSEMで観察している。前回まで、今まで雑草として見過ごしていたカタバミ、ハハコグサ、ミチタネツキバナなどに注目して、観察してきた。その様子を見ていた妻が、友人から頂いたと、図1のような放射状に咲く可愛い花を提供してくれた。この花は見たこともなく、インターネットで調べたところ、アンドロサセという花である事が分かった。この花はヨーロッパの原産で、サクラソウ科の植物である。暑さに弱いようで、園芸を趣味にしている人が育てているようだ。せっかくなので、この花の観察を今回のテーマに選んだ

図1 アンドロサセの鉢植え 図2 正面から見た花
図1 アンドロサセの鉢植え 図2 正面から見た花


図2は一輪の花を正面から観察した写真である。直径が5mmほどの小さな可愛い花で、花弁は白くまばゆい。中央部には緑色の壺状の窪みができていて、その中に雌蕊と雄蕊が収まっている形状である

図3 花の断面 図4 花の断面のSEM像
図3 花の断面 図4 花の断面のSEM像


図3は花を裂いて観た断面である。図2で見た窪みの中に雌蕊と雄蕊が見える。下部の緑色の土台は子房であり、その中央から雌蕊が出ている。図4は断面のSEM像である。中央の柱が雌蕊で、その周りに雄蕊が並んでいる。

図5 子房と雌蕊 図6 雌蕊拡大 図7 柱頭部
図5 子房と雌蕊 図6 雌蕊拡大 図7 柱頭部


図5~7は雌蕊を順次拡大して撮影した像である。

図8 柱頭部拡大 図9 受粉部 図10 受粉部拡大
図8 柱頭部拡大 図9 受粉部 図10 受粉部拡大


図8~10は雌蕊の先端の柱頭をさらに拡大した像であり、そこには付着した花粉と受粉して成長し始めた花粉管(図10)が認められる。

図11 横から見た雌蕊 図12 花柱拡大
図11 横から見た雌蕊 図12 花柱拡大


図11は雌蕊を横から観察した像である。12~14は雌蕊の花柱部を拡大した像である。普通の花の花柱の表面は細長い細胞でできているが、この花の花柱の表面は、網目状の繊維で被われていることが分かった。これがどうしてか不思議である。

図13 図12拡大 図14 図13拡大
図13 図12拡大 図14 図13拡大


図15は5枚の花弁の中央部を観察した写真である。図16に示す右上の花弁に注目して拡大して観察した結果を17~20に示す。

図15 花中心部拡大 図16 花弁
図15 花中心部拡大 図16 花弁


図17 図16拡大 図18 図17拡大
図17 図16拡大 図18 図17拡大


図19 図18拡大 図20 図19拡大
図19 図18拡大 図20 図19拡大


花弁表面は約20μm径の多角形の細胞が密集している構造である事がわかる。花弁が中央で少し折れているので、どの図でも、右下部は花弁細胞を正面から観察した像で、左上部は花弁が傾いた場所で、花弁細胞の突起を横から観察していることになる。左上部と右下部の突起の写真から、突起の形状が理解できる。細胞の表面は図20で分かるように、ちょうど乳房の形をしていることが分かった。



図21~26は、左側に開いた別の花弁を観察した結果である。

図21 他の花弁 図22 図21右部拡大
図21 他の花弁 図22 図21右部拡大


図23 図22の拡大 図24 図23の拡大
図23 図22の拡大 図24 図23の拡大


図22~24は右端の窪みに近い部分の拡大である。この部分では、乳房状の突起が細長くより突き出ていることが分かった。

図25 図21中央部拡大 図26 図25の拡大
図25 図21中央部拡大 図26 図25の拡大


図25,26は図21の中央部の拡大像である。ここでは突起の高さはやや低い。図26で突起部に細かい筋状の構造が認められるが、これは電子線を当て続けると段々見えやすくなることから、電子線障害により内部の水分が蒸発して皺ができたと考えられる。観察初期に撮影した図20,24では、皺構造はあまりはっきり認められない。インターネットなどで報告されている花弁表面像で、この皺が鮮明に撮影されている像があるが、これは鮮明な像を得るため、電子線を強く当てた結果、皺ができた結果と考えられる。



次に花弁の下部で、窪みへの曲がり部とその下の壁面を観察した結果を示す。

図27 花の断面 図28 折り返し部
図27 花の断面 図28 折り返し部


図27は窪み部の断面像である。窪み部への曲がり部を観察したのが図28である。

図29 花弁の窪み部 図30 窪み部側面
図29 花弁の窪み部 図30 窪み部側面


図29は窪み部の壁面で、細かい突起が認められる。この部分を順次拡大して観察したのが図30~32である。図32からこの突起は、ゼラニュームの茎や葉の表面で観察した、いわゆる匂い玉に似た構造である事が分かった。すなわちこの窪み部から匂いを出しているようだ。 雌蕊や雄蕊がある窪み部に匂い玉があるのは、受粉を助けてくれる昆虫を導く手法ではないかと思う。

図31 図30拡大 図32 図31の拡大
図31 図30拡大 図32 図31の拡大


次に、子房部を拡大して観察した。その結果を図33に示す。子房の表面には油粒のようなものが付着しているのが分かった。この粒を拡大して観察したのが図34~38である。

図33 子房部 図34 子房部表面
図33 子房部 図34 子房部表面


図34は図33の手前部を拡大した像である。さらに図34を拡大したのが図35であり、その中の小さな粒を拡大したのが図36である。

図35 図34の拡大 図36 図35の拡大
図35 図34の拡大 図36 図35の拡大


この粒は蒸発しにくい粘液で、昆虫を導く蜜と考えられる。この蜜が子房からどのように放出されるかに注目したが、特別の穴も認められなかった。おそらく、我々の汗を出す汗腺のような微細な器官があるか、細胞が接する境界から浸みだすのであろう。



図35に見える直径15μmくらいの円盤状の構造は、蜜とあまり関係がなく、蜜の出口とは考えられない。一個を拡大して観察した結果が図37である。これは今まで葉などに観察した気孔と非常によく似ている。

図37 気孔部拡大
図37 気孔部拡大


子房表面にも気孔があることが分かった。



今まで、小さな花を中心に、その花の構造を調べてきた。受粉の仕方、花弁のようす、蜜腺のようす等、その花特有の仕組みを持っていることがわかった。我々が勝手に雑草と呼んでいる草も、それぞれ美しくい花を咲かせ、巧みな方法で子孫を残している。



                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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