■ 道端に咲く可憐な花6(ミチタネツケバナ)

3月に入り、そろそろ何かの花が咲き始めるのではと庭に出て、腰を下ろして地面を見たら、昨年観察したオオイヌフグリが今年も咲き始めていた。よく見ると、その横に直径5mmくらいのさらに小さな白い花が咲いているのを見つけた(図1)。

図1 オオイヌフグリとミチタネツケバナ 図2 ミチタネツケバナ
図1 オオイヌフグリとミチタネツケバナ 図2 ミチタネツケバナ


図2は別の場所にあった株である。茎はロゼット状(放射状)に広がり、葉っぱは丸まった形をしている。インターネットで調べたら、ミチタネツケバナであることが分かった。昨年までこの花の存在に気が付かなかった。この植物は欧州から渡来して急激に繁殖したとのこと。もともと日本にあるタネツキバナは、水湿地に生育し、葉の形も角ばっている。葉の形からも、庭で見つかった草はミチタネツケバナである。

図3 花の拡大 図4 図3の花のSEM像
図3 花の拡大 図4 図3の花のSEM像


図3はミチタネツケバナの花を横からと上から撮影した写真である。真ん中の太い柱が雌蕊の花柱である。この試料の手前の花弁を下に曲げ、低真空観察法でSEM撮影したのが図4である。雌蕊の周りに4本の雄蕊があり、先端に葯がついている。


・雌蕊と雄蕊


図5 図4の花柱部拡大 図6 図5の受粉部1
図5 図4の花柱部拡大 図6 図5の受粉部1


図5~10は雌蕊の花頭部分を観察した写真である。特に受粉の様子に注目した。

図7 受粉部1の拡大 図8 受粉部2
図7 受粉部1の拡大 図8 受粉部2


図6は図5の右側部を、図8は左側を拡大した像である。それらをさらに拡大したのが、図7、9、10である。花粉が花粉管を伸ばし、雌蕊から出ている指状の組織に侵入していることが分かる。また、受粉した花粉はやや膨潤していることが分かった。

図9 受粉部2拡大A 図10 受粉部2拡大B
図9 受粉部2拡大A 図10 受粉部2拡大B


次に、雄蕊を拡大して観察した。その結果を図11~14に示す。

図11 図4の雄蕊部 図12 図11拡大
図11 図4の雄蕊部 図12 図11拡大


図13 図12拡大 図14 花粉拡大
図13 図12拡大 図14 花粉拡大


図13は葯の拡大で、図14はさらに拡大して付着している花粉を撮影した写真である。
図7、9、10で観察した受粉した花粉と異なり、まだスマートな形である。


・蜜腺


図4をよく見ると、雌蕊や雄蕊の下に黒い粒が見える。これは密液ではないかと拡大して観察した。その結果を図15~17に示す。

図15 図4下部の蜜液 図16 図14拡大
図15 図4下部の蜜液 図16 図14拡大


図17 蜜液の強拡大 図18 受粉後の花柱の成長
図17 蜜液の強拡大 図18 受粉後の花柱の成長


像は粘性のある液体のように見える。これは雌蕊や雄蕊の根元から出た蜜液ではないかと思う。ユキヤナギや蕎麦の花では、蜜が出る蜜腺がはっきり見えたが、ミチタネツケバナでは雌蕊の根元に隠れている。


・種鞘


受粉をすると、花柱がどんどん上に伸び、その中に種を育てていることが分かった。図18は花柱が種鞘に成長する様子を撮影したものである。成長した花柱内には種ができている。右端の成長した花柱の表面には凹凸があり、種の存在が分かる。

図19~22は、図19のように、花柱が雄蕊や花弁より少し上まで成長し茶色く変色した雌蕊の受粉状態を観察したものである。

図19 伸びた花柱 図20 図19の花頭の拡大
図19 伸びた花柱 図20 図19の花頭の拡大


図21 受粉部 図22 受粉部拡大
図21 受粉部 図22 受粉部拡大


花柱が成長し、茶色く変質した雌蕊では、花頭表面の指状組織が少し垂れ下がっているが、同じような受粉状態が認められた。

次に成長し、花柱内に種ができた種鞘の断面を観察した。
その結果を図23~32に示す。

図23 種鞘の断面 図24 種鞘の断面のSEM像
図23 種鞘の断面 図24 種鞘の断面のSEM像


図23は成長した種鞘を半分に裂いてその断面を観察した光学顕微鏡像である。左部に種の粒が認められる。種は隔膜の両側に並んで成長している。
図24はその先端部のSEM像である。この観察に際し、受粉して花柱内に入り込む花粉管が見えないかと期待した。右側の花頭部には花粉が見える。花柱内は筋状の組織が見えるが、花粉管と断定できる像は認められなかった。図25、26はその拡大像である。花柱内に繊維構造が認められるが、確実に連続した組織は認められなかった。この像で、花柱の花頭部分の側面に近い場所に、細かい穴組織が認められる。この部分は水を通す道管ではないかと思う。ドーナツ状に分布しているようだ。

図25 花頭部拡大A 図26 花頭部拡大B
図25 花頭部拡大A 図26 花頭部拡大B


次に種の部分を観察した。

図27 種の房の断面先端部 図28 種部拡大
図27 種の房の断面先端部 図28 種部拡大


図27から、種は中央の隔膜の両側に並んでいることが分かった。両側の種粒は互いに半分だけずれて並んでいる。

図29 図28のA部拡大 図30 図29の拡大
図29 図28のA部拡大 図30 図29の拡大


図31 図28のB部拡大 図32 図31の拡大
図31 図28のB部拡大 図32 図31の拡大


種から出たへその緒のような紐は、隔壁に沿って花粉管に繋がっていると考えられる。緒を追ったが、途中から隔壁の組織と区別がつかなかった。緒組織が認められない種は、一つ置きに認められるが、下部で隔壁と繋がっていると考えられる。


・花弁


今までいろいろな花の花弁表面は観察してきたが、この花はたいへん小さいので、全体を観察することができる。この花弁の全長は約3mmである。

図33 一枚の花弁 図34 図33のSEM像
図33 一枚の花弁 図34 図33のSEM像


図33は一枚の花弁の写真であり、図34はそのSEM像である。まず中央部を順次拡大して観察した。その結果を図35~38に示す。花弁の凹凸は前回観察したコスモスの花弁とおなじような形状であった。

図35 花弁中央部 図36 図35の拡大
図35 花弁中央部 図36 図35の拡大


図37 図36の拡大 図38 図37の拡大
図37 図36の拡大 図38 図37の拡大


花弁が少し折れている場所では、花弁の凹凸の形状がよくわかる。図37、38の上部はほぼ真上から見た凹凸であり、下部は斜めから見た状態である。このことから、花弁の凹凸組織は山状になっていることが分かる。

図39 花弁の先端部 図40 先端部拡大
図39 花弁の先端部 図40 先端部拡大


花弁の端を観察した結果を図39、40に示す。端部は、押しつぶして固めたようになっていることが分かった。

花弁の基部を撮影した結果を図41~44に示す。

図41 花弁付け根部 図42 図41の拡大
図41 花弁付け根部 図42 図41の拡大


図43 図42の拡大 図44 図43の拡大
図43 図42の拡大 図44 図43の拡大


花弁の中央部では、凹凸は円状であったが、基部では細長い事が分かった。その傾向は基部になるほど著しい。縦横の比が、5~6になっている。



以上、庭で見つけた5mmほどの小さな可愛いミチタネツケバナを観察した結果を報告した。受粉などは、大きな花と同じように行われていた。また種は、インゲンマメやグリーンピースのように、さやの中に一列に並んでいる。一応原稿を書き終わった昨日、スーパーマーケットで買ったグリーンピースを開いたら、図45のように、隔膜がなく、交互に鞘に繋がって収まっていた。一方ミチタネツケバナには隔膜があり、二段構造で種が並んでいて、種は隔膜と繋がっていることが分かった。それを確認するため、庭に出て種が飛び散った後を見たところ、薄い隔膜だけが残っていた。その顕微鏡像を図46に示す。上下交互に種との繋ぎ紐が残っている。

図45 グリーンピースの鞘の中身 図46 種が飛んだ後のミチタネツケバナ
図45 グリーンピースの鞘の中身 図46 種が飛んだ後のミチタネツケバナ


花による種のでき方を調べるのも面白い。



                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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