■ 道端に咲く可憐な花5(コスモス))

秋になると、庭にも道端にも畑にも、コスモスの花が咲き乱れる。茎や葉から一見弱々しく見えるが、花弁は力強く凛と張っている。今回は、コスモスの花を観察することにした。

図1 満開のコスモスの丘 図2 コスモスの花
図1 満開のコスモスの丘 図2 コスモスの花


図1は少し遅かったが、10月下旬に国営昭和公園の花の丘で撮影したコスモス群である。 その一部の拡大が図2である。花だけを見るとしっかりしている。11月になって、コスモスの花を観察しようと思い花屋さんを訪ねたが、時期が遅かったのか、一鉢しか残っていなかった。 それを求め庭に植えた。そのコスモスを一輪一輪切り取りSEM観察した。

図3 コスモスの花の中心部 図4 コスモスの雌蕊
図3 コスモスの花の中心部 図4 コスモスの雌蕊


コスモスはキク科の植物で、図3に見えるように、中央に筒状花と呼ばれる沢山の小さな花群から構成されている。 最外列の花弁の内、一枚が大きく発達して8枚の花びらとなっている。 これらは舌状花と呼ばれている。コスモスの雌蕊は図4に示すように、花弁を飛び出し上に長く伸びている。次に雄蕊はどこにあるかに注目した。


・雄蕊
図5 コスモスの雄蕊と雌蕊 図6 雄蕊と雌蕊のSEM像
図5 コスモスの雄蕊と雌蕊 図6 雄蕊と雌蕊のSEM像


図5は雄蕊と雌蕊と花弁の関係がよくわかる写真である。下部の開いているのが5枚の花弁、その上のやや黒い色のヘラ状の物が雄蕊である。 一番上の黄色で丸まっているのが雌蕊である。図6~8は別の花をSEM観察した結果である。 雌蕊の軸を取り囲んでいるヘラが雄蕊である。図8はその拡大像であり、雄蕊の内側に花粉が沢山見える。

図7 図6の拡大 図8 図7の拡大で花粉が見える
図7 図6の拡大 図8 図7の拡大で花粉が見える


・雌蕊



次に、雌蕊が成長する様子を調べた。図9~12はいくつかの筒状花から、雌蕊が成長する過程を調べた結果である。

図9 初期の雌蕊 図10 発育して出た雌蕊
図9 初期の雌蕊 図10 発育して出た雌蕊


まず、花弁の中から双葉のように左右に開きかけた雌蕊が顔を出す(図9)。 雌蕊はどんどん成長し、図10のように双葉の先が垂れ下がる(図10)。次に先端が内側に曲がる(図11)。 さらに先端はとぐろを巻く(図12)。 この頃には花粉が多く付着し、受粉が始まる。おそらく、下部にある花粉を風や昆虫が運ぶのであろう。

図11 さらに成長して先端をよせる 図12 先端が渦巻く
図11 さらに成長して先端をよせる 図12 先端が渦巻く


雌蕊の様子をもう少し詳しく調べた。 まず、双葉状の雌蕊を上方から観察した。結果を図13~16に示す。 表面はモップのように粒状の組織(表皮毛)があり、周囲になると長くなっている。

図13 発育初期の雌蕊 図14 図13雌蕊上部拡大
図13 発育初期の雌蕊 図14 図13雌蕊上部拡大く


図15 図14の拡大 図16 図15の強拡大
図15 図14の拡大 図16 図15の強拡大く


発育した雌蕊では、反り返り、先端が下に垂れている。その詳細を観察したのが図17~20である。

図17 発育した雌蕊 図18 図17の左側拡大
図17 発育した雌蕊 図18 図17の左側拡大く


図19 図18の房部拡大 図20 図18の先端部拡大
図19 図18の房部拡大 図20 図18の先端部拡大く


先端以外の表面は、短い指状の組織(表皮毛)で覆われている。 先端部では、長い指状の組織があり、最先端部は図20に見られように、棒の周りに指構造がついている。どうしてこんな形をしているか不思議である。



・受粉



成長した雌蕊はとぐろを巻いている。 そのステージになると、表面に花粉が沢山付着している事が分かった。その中で確実に受粉していると思われる部分を図21~28に2例紹介する。

図21 受粉した雌蕊 図22 図21の拡大
図21 受粉した雌蕊 図22 図21の拡大く


図23 図22の拡大 図24 図23の拡大
図23 図22の拡大 図24 図23の拡大く


図21~24はタイヤ状に巻いた外側に沢山ある指状の突起(表皮毛)に付着した例で、図24から花粉から伸びた花粉管が雌蕊の指状の突起に入り込んでいるのが確認できる。

図25 別の受粉した雌蕊 図26 図25の拡大
図25 別の受粉した雌蕊 図26 図25の拡大く


図27 図26受粉部の拡大 図28 図27の拡大
図27 図26受粉部の拡大 図28 図27の拡大く


図25~28は、伸びた雌蕊の先端部の長い表皮毛の先端に付着した例である。図28から、花粉が確実に雌蕊先端と反応して繋がっていることが分かる



・花弁表面



外側の大きな花弁の表面はどのような構造になっているかが知りたかった。
図29~32は比較的平坦な部分を拡大した写真である。

図29 平坦な花弁表面 図30 図29の拡大
図29 平坦な花弁表面 図30 図29の拡大く


図31 図30の拡大 図32 図31の拡大
図31 図30の拡大 図32 図31の拡大く


20μm径くらいの突起が押しくら饅頭をしているように、密着して並んでいることが分かった。図32の左上部の突起は少し傾いている。これから突起が山状である事がわかる。
図2から分かるように、花弁には筋状の段差がある場所がある。次にその部分を観察した。 結果を図33~36に示す。

図33 花弁の段差部 図34 図33の拡大
図33 花弁の段差部 図34 図33の拡大く


図35 図34の拡大 図36 図35の拡大
図35 図34の拡大 図36 図35の拡大く


図33の中央に上下に走る黒帯は左右間に段差がある境界である。その場所の拡大を図34~36に示す。 図35の両側は段差を挟む平坦な部分であり、中央部は段差をつなげる傾斜部分である。傾斜部分から突起の横方向から見た形状が分かる。 裾野は傾斜が緩く、中心に行くほど傾斜が急になり、ちょうど富士山のような形である事が分かった。

富士山のような形状の物を真上から観察した時、どうしてその二次電子像が図32のように、中央が黒く、またその周りがドーナツ状に白いのかが不思議であった。
この現象を考察した結果を図37に示す。
観察条件は、加速電圧2kVで、真空度は4Pa、試料は無処理のものを用いた。

図37 突起の像コントラストの説明
図37 突起の像コントラストの説明


突起が図左のような富士山型の形状であるとすると、その各部分から発生する二次電子は赤い矢のようになる。 すなわち真上では照射電子がほぼ直角に入射するため、表面の膜を通過する頻度が高く、結果的には二次電子の発生効率が悪い。 他方、頂上から下は急激な傾斜面であり、ここに照射電子が当たると、膜の中を通過する距離が長く、結果的には膜からの二次電子が多くなる。 さらに裾野では傾斜がなだらかなので、二次電子は中間的な量だけ発生する。 したがって、図右のように、コントラストの差が出ることになる。 電子顕微鏡像はこのように照射電子と試料面の傾き具合によってもコントラストが著しく異なる事があるので像解釈には注意が必要である。

今回の観察では、花弁表面の突起を真上からと横からと観察ができたので、形状によるコントラストの差の説明ができた。



                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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