■ 道端に咲く可憐な花4(蕎麦)

稲の取入れが終わった畑などに、白い蕎麦の花を見かけるときがある。2007年にこのカフェでいろいろな干蕎麦の断面構造、茹でたときの糊化のようす、また実の中の構造などを報告した。また昨年は先輩の病院の感謝祭でこれらの展示をした。その時、実際の蕎麦の実を皆さんにお見せしたいと、インターネットで購入して展示した。その実を庭の片隅に蒔いておいたところ、秋になると芽が出て花が咲いた。 今回は庭で育った蕎麦の花の微細構造を観察した。

文献によると、蕎麦の雌蕊と雄蕊の関係は、雌蕊が雄蕊より長いものと短いものがあり、その異種同士だけが受粉できるようである。 まずその二種類の雌蕊の様子を観察した。

蕎麦 蕎麦の花
図1 蕎麦 図2 蕎麦の花


図1は蕎麦の花と葉を撮影した像である。図2は蕎麦の花を撮影したもので、咲いた花と蕾が見える。 花は直径が6mmくらいでかなり小さい。

長花柱花 短花柱花
図3 長花柱花 図4 短花柱花
 

図3と図4は、花をズームして撮影した像で、図3は雌蕊が雄蕊より長く(長花柱花)、図4は雌蕊が雄蕊より短い(短花柱花)。この二種は、それぞれ半々の確率で存在すると言われているが、確かに同じように存在した。その他蕎麦の花の特徴は、雄蕊と雌蕊の根元に黄色い球がいくつもある事である。これは昆虫を呼び寄せる密腺と考えられる。

長花柱花のSEM像 短花柱花のSEM像
図5 長花柱花のSEM像 図6 短花柱花のSEM像
 

長花柱花と短花柱花をSEMで観察したのが図5と6である。いずれの花も、その雌蕊は子房から三本に別れて出ている。根元の球状の蜜腺も鮮明に見える。

6本の雄蕊の配置 雄蕊の葯1
図7 6本の雄蕊の配置 図8 雄蕊の葯1
 


・雄蕊


図7は長花柱花の全体像である。雄蕊は6本が周りに出ている。その葯を拡大した像を図8,9,10に示す。

雄蕊の葯2 雄蕊の葯3
図9 雄蕊の葯2 図10 雄蕊の葯3
 

葯がはじけて沢山の花粉がはみ出ている。この30μmくらいの花粉を昆虫や風が短花柱花の雌蕊に運び、受粉するのである。


・受粉した雌蕊


次に受粉した雌蕊を観察した。
図11は短花柱花の雌蕊で、何個かの花粉が先端部に付着している。この左側に出ている雌蕊を拡大したのが、図12~14である。

図11 短花柱花の雌 図12 受粉した雌蕊
図11 短花柱花の雌 図12 受粉した雌蕊


 
図13 図12の拡大 図14 図13の拡大
図13 図12の拡大 図14 図13の拡大
 

花粉と雄蕊の先端部の間には、密着部分が認められ、雌蕊の中に花粉管が入り込んでいるのではないかと思われる。

 
図15 受粉した雌蕊 図16 図15の拡大
図15 受粉した雌蕊 図16 図15の拡大
   

図15,16は他の花の密着部で雌蕊の表面が盛り上がっている。これも受粉しているのではないか。

図17 受粉した雌蕊 図18 図17の拡大
図17 受粉した雌蕊 図18 図17の拡大
   

図17,18も花粉が雌蕊にしっかりつながっているのが分かる。

図19 受粉した雌蕊 図20 図19拡大
図19 受粉した雌蕊 図20 図19拡大
   

図19,20も別の花で、図20では、花粉管と思われる突起が認められる。
多くの雌蕊を観察したが、前々回のカタバミやオオイヌフグリで観察したような長い花粉管は認められなかった。しかし、花粉は確実に雌蕊との反応層があり、これが蕎麦の受粉であると考える。


・蜜腺


以前、アサガオの花を観察した時に、雌蕊や雄蕊の根元にドーナツ状の器官が認められた。これは昆虫を引き付ける蜜を出す器官(蜜腺)であることがわかった。昆虫を花の奥まで誘導して花粉付着させ、運ばせる働きがある。特徴のある蕎麦の蜜腺を詳しく観察した。

図21 雌蕊と雄蕊の根元に蜜腺 図22 蜜腺拡大
図21 雌蕊と雄蕊の根元に蜜腺 図22 蜜腺拡大
   

図21,22は密腺を撮影したデジタルカメラ像である。黄色で球状の蜜腺がいくつか見える。

図23 花の内部 図24 蜜腺の分布大
図23 花の内部 図24 蜜腺の分布
   

図23は密腺にフォーカスを合わせて撮影した花内部のSEM像である。図24はその拡大像で、6個の蜜腺が見える。

図25 蜜腺の微細構造1 図26 蜜腺の微細構造2
図25 蜜腺の微細構造1 図26 蜜腺の微細構造2
 

図24の左右の蜜腺を拡大したのが図25と26である。ここで特徴的なことは、個々の球状の蜜腺の両側に、指のような突起がある事である。球状の蜜腺の下側に、凹凸の無い、何か液体のようなものが認められる。これは密腺から出された蜜ではないか。

図27 蜜腺の穴部 図28 蜜腺の穴部拡大
図27 蜜腺の穴部 図28 蜜腺の穴部拡大
 

この指のような構造が蜜を出す穴ではないかと試料を傾斜しながら覗いた。その結果、図27とその拡大像図28が観察できた。図28から、指構造の間には穴があることがわかった。昆虫はこの穴から出た蜜を吸うのではないか。


・花弁表面構造


低真空で花弁構造が観察できるようになったので、蕎麦の花弁表面を観察した。
図29~32は花弁の先端部分を順次拡大して観察した結果である。

図29 花弁先端部 図30 図29の拡大
図29 花弁先端部 図30 図29の拡大
 

 
図31 図30の拡大 図32 図31の強拡大
図31 図30の拡大 図32 図31の強拡大
 

表面に配列された細胞は、細長い形状である。しかし、図29の下部に見られるように、端から中に入ると、細胞は丸くなる傾向にある。
花弁の中央部を観察した結果を図33~36に示す。

図33 花弁全体 図34 図33中央部拡大
図33 花弁全体 図34 図33中央部拡大


図35 図34拡大 図36 図35の強拡大
図35 図34拡大 図36 図35の強拡大
 

中央部では表面の細胞は約20μm径の突起の集合体であることが分かった。
次に花弁の下部で、皺がある部分を観察した。結果を図37,38に示す。

図37 皺のある場所の表面像 図38 図37の拡大
図37 皺のある場所の表面像 図38 図37の拡大
   

皺部では、下地に沿って表面の突起もうねっていることが分かった。


・蕎麦の実


蕎麦の実はどのようにできるのであろうか。

図39 蕎麦の花と実 図40 蕎麦の実の成熟
図39 蕎麦の花と実 図40 蕎麦の実の成熟


図39は種ができ始めた茎の一つである。上部には乾燥して茶色くなった6~7mmの実が、中央右側にはまだ乾燥していない緑色の実が、中央左には受粉できなかった枯れた花が、下部には咲いている花が認められる。
図40左側には実に成長したばかりの緑色の実が、右側には乾燥して茶色になった実の像を示す。いずれの実の先端にも。枯れ始めた雌蕊が見える。これは雌蕊が長く、長花柱花の子房が成長して実ができたことが分かる。周りにはまだ花弁が見える。

 
図41 蕎麦の実が実る過程 図42 成熟した実の断面
図41 蕎麦の実が実る過程 図42 成熟した実の断面


図41は上部が乾燥した実を、下部は乾燥前の実を示す。この実は雌蕊が短く、短花柱花の実である事がわかる。
図42は乾燥した実の断面である。中央に胚芽が、周りに真っ白な胚乳が見える。これらの詳細は
http://www.technex.co.jp/tinycafe/discovery18.html を見ていただきたい。

今回は、蕎麦の花から実ができるまでの様子を観察した。日ごろ味わっている蕎麦は、このような小さな花から、実が育ち、それを粉にしてできたものを食べていることを忘れてはならない。十分味わって食べたいものだ。

                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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