■ ■ 道端に咲く可憐な花2(カタバミ)
4月下旬、晴れると小さいが鮮やかに咲いている花を庭や道端で目にするようになった。今回注目したのは、今まで気になっていた、可愛い黄色の花である。図鑑で調べたら、カタバミという花である事が分かった。カタバミは7月末の今も見かける。今回はこの可憐な花を観察することにした。
カタバミは繁殖が早く、群生しやすい。花壇の仕切りの間や、道路の並木の根元などによく見られる。図1、2で見られるように花は5枚の花弁からなり、鮮やかな黄色で1cm以下の小さな花である。葉はクローバーに似たハート形である。
図3は花の中央部の拡大で、真ん中の光沢のある5本は雌蕊であり、それを囲む周りの黄色い8本が雄蕊である。 ・雌蕊 図4は、咲きはじめ(朝)の花の中央部のSEM写真である。雌蕊が良く見えるように、手前の雄蕊一本は切り取ってある。今回も、私が考案した低真空(6Pa)観察法を用いた。 まず咲きはじめの花の雌蕊を順次拡大して撮影した結果を図5~8に示す。咲きはじめの花なので、雌蕊に花粉の付着はほとんどなかった。
図5は雌蕊全体で、図6は一番奥の雌蕊の拡大像である。図7、8はその雌蕊の手前側の束の拡大像である。図8の拡大像を見ると、真空により、細胞が少し萎んでいるように見える。雌蕊の先端は、手の指で物をつまむように、数本の細胞が束になっている。全体としては図6に示すように、束が5~7組くらい枝分かれしていて、集まって一本の雌蕊になり、それが花全体で5本ある。 次に図5の一番右側の雌蕊に注目してその拡大像を観察した。その結果を図9~12に示す。
図10の撮影で、右端の雌蕊に花粉が付着していることがわかり、さらに拡大した。 図11、12から、花粉が雌蕊に付着して花粉管が形成され、受粉していることが分かった。 次に、咲いてしばらく過ぎた(午後)花の受粉を観察した。雌蕊に花粉が沢山付着しているだろうと期待したからである。 雌蕊を順次拡大して観察した結果を図13~18に示す。
前に図5、9で示した咲きはじめの花の雌蕊に比べ、咲いてしばらく過ぎた雌蕊は、図14、15で示すように、雌蕊の先には沢山の花粉が付着していることがわかった。図16で示すように、花粉群の隙間から花粉管が伸びているのが確認できた。図17、18はさらに拡大した像である。花粉管が伸びて受粉していることが分かる。 ・雄蕊 図4で示した咲きはじめの花の雄蕊には、まだ沢山の花粉が付着している。図19は全体を示し、図20は一番奥にある雄蕊の拡大で、花粉が雌蕊にまだ沢山付着しているのが分かる。
図21は咲いてしばらく過ぎた花の雄蕊を観察した像で、図22は左端の雄蕊の拡大像である。多くの花粉は飛散し、わずかに残っている。
図23は図21の右中央の雄蕊の拡大像である。ここで注目したいのは、花粉が雄蕊に紐でつながっていることである。図24はさらに拡大したもので、雄蕊と花粉がつながっていることが確認できた。雄蕊と紐で繋がっていた花粉が、しばらくして紐を切って飛散するのであろう。 ・子房 受粉した後、子房に種ができるはずである。花が萎んだ子房の縦断面を観察した。 その様子を図25~30に示す。
図25は光学顕微鏡像である。そのSEM像を図26に示す。上部に雄蕊らしきもの、中央に種らしきものが見える。
図27、28は雌蕊部を拡大した像で、雌蕊の花頭部は萎れているが、花柱部は原型を保っていることが分かる。
図26の下部を拡大した像が図29、30である。これは子房部で、中に100μmくらいの種になる粒が並んで見える。 ・果実 子房はやがて図31のような果実を実らせた。
図31は子房部が生育して実った果実である。長さはおよそ15mmで、それより長いもの短いものがある。形はちょうどオクラを思わせる。その横断面を見たのが図32である。種がびっしり詰まっていることが分かった。
果実が乾燥し始めると、図33に見えるように、だんだん透けて見え、種が詰まっている様子が外から分かる。さらに乾燥すると、内部の容積が狭くなり、はじけて種が飛び出る。図34左部は果実から種が飛び出したようすであり、右部は飛び出した種の拡大図である。種は長径が約1mmの大きさである。 ・花弁 考案した低真空観察法で、かなり湿った状態の草花の観察が可能になった。今回も花弁表面の観察を試みた。
図35は黄色い花弁の光学顕微鏡像である。縦に筋があるのが分かる。それをSEMで拡大して観察したのが、図36~38である。以前に観察したユキヤナギやオオイヌフグリの花弁表面はお椀状の凸があったが、カタバミでは、花弁の長さに沿って細長い細胞が並んでいることが分かった。
図38はその拡大像である。長いものは約150μmくらいある。
今回注目したのは図39、40である。観察を少しした後で見つかった視野であるが、図39のいたるところに気孔と思われる構造が認められた。図40はその拡大像で、葉にみられる気孔と同じ形状をしている。今まで、花弁に気孔があるとは知らなかった。花弁の表面を詳しく調べるのは、電子線量との兼ね合いが必要であるが、今後の課題としたい。
図41は花弁の付け根部のSEM像である。付け根部の花弁表面を拡大して観察したのが図42~44である。
図38で観察した細長い細胞とは異なり、付け根部では、長径はせいぜい50μmと短い細胞が重なって分布してことが分かった。 以上、今回は、庭の花壇の仕切りで見つけたカタバミという花を拡大して観察したが、雑草の仲間である花でも拡大して観察すると、興味のある世界を観る事ができた。こんなに小さくても受粉という営みをして、立派に種を作り、命を繋げているのを目の当たりに見る事ができた。 ―完― | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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