■ 道端に咲く可憐な花1(ハハコグサ)

春になると、散歩の道端で、いろんな可愛い花を見つける。いつの間にか季節を感じ、何気ない場所ですくすくと育ち、綺麗な花を咲かせ、子孫を残して命を繋げている。 今回は道端で目に留まった花を観察することにした。

春の作物を植えるため耕した畑に、そっと伸びて黄色い花を咲かせていたのはハハコグサであった。ハハコグサは春の七草のひとつで、古くから親しまれている。漢字では母子草と書くが、その言われはいろいろあるようだ。この花は一本の茎の上に沢山の小さな花が咲き、ブロッコリーのようである。

今回もSEM観察は、前に示した低真空法でおこなった。試料は無処理で、無コーティングでおこなった。低真空状態(約6Pa)なので、撮影時の帯電も少なかった。

道端に咲くハハコグサ 蕾のあるハハコグサ
図1 道端に咲くハハコグサ 図2 蕾のあるハハコグサ
   

図1は道端で見つけたハハコグサである。葉と茎は白い綿毛で覆われている。茎の先端には多くの小さな花を持っている。このような花を頭状花序と呼ぶようだ。図2は斜め上から観察したもので、中央部の濃い黄色部は開花していて、周りの薄い黄色の花は蕾の状態である。

上から観た花群 一個の頭花
図3 上から観た花群 図4 一個の頭花
   

図3で示すように、ハハコグサの頭状花序は、直径2~3mmの花が束になっている。図4に示すように、各々の花(頭花)はさらに小さな小花群から構成されている。頭花の中央部には、5個くらいの直径約0.4mmの両性花があり、その周りには雌花(単性花)が取り囲んでいる。両性花は雄蕊と雌蕊を含む花で、花弁(総苞片)が5枚ある。他方周りの雌花は3枚の花弁持ち、雌蕊だけで、雄蕊や花粉はない。

蕾がある頭花 図5のSEM像
図5 蕾がある頭花 図6 図5のSEM像


図5はまだ開花していない両性花を含む頭花で、開花の様子を調べた。図6は対応するSEM像である。

蕾のある視野 蕾の小花
図7 蕾のある視野 図8 蕾の小花
 

図7は図6の拡大で、蕾と少し開花した両性花が認められる。図8は図7の左上の蕾の状態の花である。それをさらに拡大したのが図8である。

少し開いて花粉が見える小花 図9の拡大
図9 少し開いて花粉が見える小花 図10 図9の拡大
 

図9は図7の右下の花で、蕾の先が割れて、花粉が出ている状態である。さらに拡大したのが図10で、割れ目から花粉が飛び出しているのが分かる。

雌蕊が開いた小花 図11の拡大
図11 雌蕊が開いた小花 図12 図11の拡大
 

図11は別の花で、蕾が開いて、下から雌蕊が花粉を押し出して広がっている状態である。

図12左部の拡大 図12右部の拡大
図13 図12左部の拡大 図14 図12右部の拡大


図13と14は図12をさらに拡大したもので、指のような構造は雌蕊の先端で、花粉が付着している。
この視野の観察で、下から成長した雌蕊が花粉を押しのけて広がっていく様子が分かった。その際、花粉が付着して受粉するのであろう。しかし、受粉して雌蕊と花粉が確実に接合している視野はなかなか見つけられなかった。
いくつもの花を観察した結果、接合している視野を見つけることができたので紹介する。

受粉視野 図15の青円部のSEM像
図15 受粉視野 図16 図15の青円部のSEM像
 

図15は受粉が認められた頭花の光学顕微鏡写真である。この青円部の拡大SEM像を図16に示す。二つの雌蕊の帯が成長して左右に広がっているのが分かる。

雌蕊左部 図17の拡大
図17 雌蕊左部 図18 図17の拡大
 

図17は左側の雌蕊で、それを拡大すると図18で、中央の花粉が雌蕊に接合しているようである。さらに拡大したのが図19である。この写真から、花粉が下地の雌蕊の突起と接合して、受粉しているのが分かる。

図18の拡大(受粉) 図16右雌蕊
図19 図18の拡大(受粉) 図20 図16右雌蕊
 

図20は右側の雌蕊である。側面に付着している花粉はその接合状態が分かる。図21、22はその拡大像で、花粉が雌蕊の突起と接合しているのが確認できた。

図20の拡大 図21の拡大(受粉)
図21 図20の拡大 図22 図21の拡大(受粉)
 

以上は、頭花の中央部にある、両性花を観察してきた。
次に周りの単性花の受粉の様子を調べた。

斜め横から観察 図23の拡大
図23 斜め横から観察 図24 図23の拡大
 

図23は頭花を斜め横から観察した例である。図24はその拡大で、唇を開いたような花が認められる。さらに拡大したのが図25で、3枚の花弁(総苞片)があり、中から舌のような雌蕊が2枚出ているのが分かる。その表面には沢山の花粉が付着している。これは中央の両性花から飛散してきた花粉であろう。

図24の拡大 図25の拡大(受粉)
図25 図24の拡大 図26 図25の拡大(受粉)
 

右側の雌蕊の先端部をさらに拡大したのが図26である。先端部の花粉は雌蕊と接合しているのが分かる。このように周りの単性花も受粉することが確認できた。


さて受粉した後はどのようになるのだろうか?それが知りたくて、切り取った頭花を部屋で観察した。その結果を次に紹介する。

顕微鏡下で固定した頭花 乾燥し始める
図27 顕微鏡下で固定した頭花 図28 乾燥し始める
 

乾燥が始まると、小花やその間にある毛(冠毛)が伸びて広がる。その様子を図27と28に示す。

各花が花床から分離する 花弁が離れる
図29 各花が花床から分離する 図30 花弁が離れる
 

さらに乾燥すると、図29のように、各花が花床から離れる。やがて図30のように、花弁が離れ、種と綿毛だけになる。

頭状花序を横から見る 綿毛がついた種
図31 頭状花序を横から見る 図32 綿毛がついた種
 

図31は頭状花序を横から見た写真で、綿毛が盛り上がっている。図32は一個の綿毛が付いた種の写真である。種の長さは約0.5mm程度である。

種が剥がれた花床 一個だけ残った種
図33 種が剥がれた花床 図34 一個だけ残った種
 

種が離れた後には、それらを支えていた花床が見える。図33に示した花床では、一個の種がまだ分離していない状態であった。そこで、この試料を用いて種の様子や花床の様子を観察することにした。図34は図33に対応する視野のSEM像である。

図34の拡大 種部拡大
図35 図34の拡大 図36 種部拡大
 

図35は図34の拡大像であり、図36は右端にある種の拡大である。図36の右半分は枯れた花部であり、左半分は種の部分である。その境界からは綿毛が四方八方に伸びている。

綿毛部拡大 綿毛の先端
図37 綿毛部拡大 図38 綿毛の先端
   

図37は綿毛の中央部の拡大像である。直径10μm程度の筒を束ねた形で、とがった先が 周期的に張り出している。図38は先端部で、筒の先は丸くなっている。

種が剥がれた花床 図39の拡大
図39 種が剥がれた花床 図40 図39の拡大
   

図39と40は花床を観察したもので、種の尾部が離れていった後である。

綿毛と種 図41の拡大
図41 綿毛と種 図42 図41の拡大
 

図41は種を横から撮影した像で、15本の綿毛が出ている。これによって空中をさまよい、別の場所に新しい子孫を残すのであろう。

前から見た種 図43の拡大
図43 前から見た種 図44 図43の拡大
   

図43は種を前から見た写真で、図44では花が離れていった後が見える。



以上、道端で見つけたハハコグサを観察した。今回興味深かったのは、この頭花の中央部には雄蕊と雌蕊が備わった両性花と、周辺には雌蕊だけの単性花から構成されていることである。なぜこのような構成になったのか不思議である。自家受粉できる花と、雄花、雌花が別々に存在する花との中間的な存在である。

                  ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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