■蚕の成虫を観る2(触覚、複眼、尾部など)
前回に続き、提供していただいた蚕の成虫の翅以外の部分を観察した。 ・触覚 羽化した蚕の成虫(蛾)の寿命は約一週間であり、この間に交尾をして産卵をしなければならない。したがってメスが発するフェロモンの匂いをできるだけ感度良く感知するため、オスの触覚は非常に大きく発達している。
図1はオスの成虫を正面から撮影した写真である。櫛型の触覚が異常に大きいことが分かる。図2,3はさらに近づいて撮影した像で、櫛の歯列の間に繊毛が認められる。 図4は図2に対応した視野をSEM観察したものである。さらに拡大して観察した結果を図5~8に示す。
櫛の歯は鱗のような構造で覆われ、櫛の歯の先端部からは多くの繊毛が出ている。これが匂いを感じる嗅感器であると考えられる。 次に図5で見える櫛の歯の内側を観察した。その結果を図9~14に示す。
内側では櫛の歯の全面から繊毛が生えている。それらを拡大した図12、14は嗅感覚子という嗅覚器(注1)と考えられる。しかし、匂いを物質内に取り込む嗅孔までは認められなかった。さらに小さい構造があるかもしれない。 櫛状の触覚の最先端部を拡大して観察した。その結果を図15~18に示す。
ここにも歯の鱗構造の間から繊毛(嗅感覚子)が生えていることが分かった。 ・複眼 触覚が進化しているためか、視覚はあまり性能が良くないようである。その複眼を観察した。 デジタルカメラで撮影した複眼像を図19,20に示す。
図21は図20の視野をSEM観察した像である。図22~26は順次拡大して撮影した像である。
図26のように強拡大しても、蚊や蝶のような微細構造は認められなかった。 次に図27に示す複眼の間にある体毛の構造について観察した。順次拡大して観察した結果を図28~ 30に示す。
拡大像から、構造は前に観察した翅の鱗粉構造とよく似ていることが分かった。蚕の成虫の体は、蚊と同じように鱗粉で覆われていることが分かった。 次に図21の複眼の表面に付着している鱗粉らしきものを拡大して観察した。その結果を図31~34に示す。
翅よりやや狭い形だが、やはり鱗粉である。複眼の近くの体毛だと思う。このように、成虫の体は鱗粉で覆われていることが分かった。 ・尾部 最後に観察できたのは尾部である。オスの尾部の写真を図35に示す。尾部を真後ろからSEM観察したのが図36である。
凹凸を見るため約30度傾斜して撮影したのが図37である。上部に一対と中央部に一対の角状の器官がある。これが交尾の時にメスを捕まえておく器官で、おそらく上と中の角で挟んで固定するのであろう。ここでは挟器と呼ぶことにする。 下部に突き出ているのが陰茎であろう。肛門も見える。
陰茎を拡大すると、球状の物質が付着していた(図39)。これは羽化の際に使う液体の残渣で、尿として排出された残りであろう。
挟器を拡大して観察したのが図40~42である。かなり鋭い角で掴むので、メスは完全に支配される。 以上、提供していただいた蚕のオスの成虫を観察した。ただ卵を産むだけに羽化した成虫の生きざまは、子孫を残すという本能によるものであるが、なんとなく可愛そうに見えた。ミクロの世界を楽しんでいる自分の幸せを再認識した。 参考文献 (注1)感覚器の進化:岩堀修明、講談社、2011 -完- | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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