■生に近い状態での観察3(ユキヤナギ)
前回は、庭のレンガの隙間に咲いていたオオイヌフグリの花をできるだけ生に近い状態で観察した。今回は庭の樹木の花に注目した。3月末に更新を終わり、ほっとして庭に出たら、真っ白な塊が目に留まった(図1)。細い枝が柳のようで、白い花を咲かせるユキヤナギである。満開になると、葉や幹は白い花に隠れ、雪が積もったようだ。この花の雌蕊と雄蕊は図2のように、区別して明確に観察できる。そこで、この花を観察することにした。
図3は花の中央部を正面から観察したSEM像である。
・雌蕊 図3の中央には5個の三角形の子房が見え、その先に雌蕊が突き出ている。子房のまわりには直径約1.5ミリのドーナツ状の組織があり。その側面からは20個の雄蕊が伸びている。一本の雌蕊の先端(柱頭)を撮影したのが図4である。その直径は約200μmで、表面は粘液で濡れていて、それに花粉が付着しているのが分かる。オオイヌフグリの雌蕊先端には、沢山の指のような突起があり、それに花粉を付着させていたが、ユキヤナギでは、粘液が花粉を付着させているようだ。 柱頭を拡大して観察した結果を図5〜8に示す。
いずれの写真にも、長く伸びた花粉管が認められる。雌蕊の粘液に刺激されて花粉管が伸びたのであろう。図6,8では花粉の割れ目から花粉管の芽が出始めている様子が観察できる。 図9,10は柱頭にスギ花粉が付着していた例である。
スギ花粉は多く観ているのですぐ分かった。スギ花粉はこの季節に大量に空気中に飛散するので、別の花に付着する可能性もある。ユキヤナギの雌蕊は異人いや異粉の訪問にびっくりしただろう。 ・雄蕊
図11はドーナツ状の部分を斜めから観察した写真である。この視野の雄蕊を拡大して観察した結果を図12〜14に示す。
葯には無数の花粉が認められる。ここで観察できる花粉は、ラクビーボールのように楕円形である。一方、図5〜8で観察した花粉の形状は球状に近い。これは粘液に浸って刺激され、花粉が膨潤したためであろう。 ・蜜腺 次に図11とは反対に傾斜して、ドーナツ状の組織の手前側を観察した。このドーナツ状の組織は昆虫を呼び寄せるための蜜を出す蜜腺と思われる。
図15はその全体像で、図16は手前の部分を拡大した像である。ドーナツ状の蜜腺の表面に球状のものが見える。これが蜜、すなわち匂い玉ではないかと思う。その球状組織を拡大して観察した。その結果を図17〜20に示す。
球状構造は、風船を膨らませたようで、粘性があり、しかも、その根元は、蜜腺の隙間から出ているようである。この写真から、蜜と思われる匂い玉は蜜腺構造から滲み出て、次第に大きくなったと考えられる。 次に図16の右側の、蜜腺構造に隙間ができている場所に注目した。その部分には、飴を引っ張って伸ばしたような構造があった。その結果を図21〜24に示す。
蜜腺構造のブロックの間に粘性のある組織がある。ねり飴のようである。かなり粘性のある物質である。両側から滲み出た蜜が合体したのであろうか。 図25〜27は、その組織の中から滲みだし、成長を始めたと考えられる蜜玉である。
図26,27からも、滲み出て成長している様子が分かる。 ・花弁表面 ゼラニュームでもオオイヌフグリでも、花弁の表面には規則正しく乳房状の突起が並んでいた。ユキヤナギの花弁はどうであろうか。同じように観察した。その結果を図28〜31に示す。
表面の凹凸は、あまり規則的でなく、また前の二種のように突起状でなく、ぼた餅を並べたようである。 拡大をすると、図31で分かるように皺が少し認められる。これは前の二種の経験から、電子線照射により水分が少し蒸発して、細胞に皺ができた状態と考えられる。しかし、皺はそれほど顕著でなく、細胞の凹凸の形状はほとんど生の状態に近いと考えられる。 -完- | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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