■ハーブの匂い玉はどこに4(ドクダミとトマト)



今までの観察で、ハーブの匂いの多くは、葉や茎に点在している匂い玉(腺毛)に精油が蓄えられ、それが少しずつ蒸発し、我々の嗅覚に心地よい匂いを感じることができることが分かった。
ハーブの仲間でも、強烈な匂いを発する植物がある。ドクダミの香りは親しめないが、ハーブの仲間だと分かった。ドクダミは、解毒作用や利尿作用があり、ハーブティーとしても親しまれているようだ。ドクダミにも匂い玉があるのであろうか。
また庭の菜園で育てているトマトも独特な匂いがする。トマトはハーブの仲間ではないが、その匂いはどこから発するのであろうか。そんな疑問が湧き、二種類の葉の表面を観察した。



・ドクダミの匂いの元

ドクダミの葉 葉の表面の光学顕微鏡拡大像
図1 ドクダミの葉 図2 葉の表面の光学顕微鏡拡大像


図1はおなじみのドクダミである。わが家では庭を作った時に入れた土の中にドクダミの根があったためか、庭のいたるところに毎年芽を出す。5月の連休に若芽をむしり取るが、夏になるとさらに増える。女房は虫刺されや切り傷に効くと、時々葉をもんで塗っている。
ドクダミの葉の表面を光学顕微鏡で観察をすると、クレーターのような模様がいたるところに認められた。これが匂い玉ではないかとSEM観察をした。
図3〜12は、順次拡大して葉の表面を観察した結果で、左列の写真が真上から、右列の写真は同一視野を約60度斜め上方から観察した結果である。

葉の表面のSEM像 図3の視野を斜め上から
図3 葉の表面のSEM像 図4 図3の視野を斜め上から


図3の拡大像 図5の視野を斜め上から
図5 図3の拡大像 図6 図5の視野を斜め上から


図5の拡大 図7の視野を斜め上から
図7 図5の拡大 図8 図7の視野を斜め上から


図7の拡大 図9の視野を斜め上から
図9 図7の拡大 図10 図9の視野を斜め上から


図9の拡大 図11の視野を斜め上から
図11 図9の拡大 図12 図11の視野を斜め上から


図2の光学顕微鏡像で膨らんで見える細胞は、SEM像では多くがひしゃげている。これはSEMでは真空中で観察するため、細胞中の水分が蒸発して萎んだためと考えられる。
光学顕微鏡で観察したクレーターのような構造の詳細をSEMで観察すると、中央が山形で、何かを含んでいるようである。これがドクダミの匂い玉でないかと思う。他のハーブのように突出はしていないが、図3で示すような分布状態からも、ここに匂いの源があると考えられる。表面のいたるところに見える筋状の像は、細胞が萎むことによってできた皺だと考えられる。

気孔のある視野 図13の左下部の気孔拡大
図13 気孔のある視野 図14 図13の左下部の気孔拡大


図13に示すように、葉の表面には匂い玉の他に気孔が所々にあった。図13の左下の気孔を拡大した像を図14に示す。中の弁は閉じた状態である。



次に葉の裏面を観察した結果を図15〜24に示す。表面と同じように、左列の像は表面像を真上から、右列の像は約60度上方から同一視野を観察した結果である。

葉の裏面SEM像 図15の視野を斜め上から
図15 葉の裏面SEM像 図16 図15の視野を斜め上から


図15の拡大 図17の視野を斜め上から
図17 図15の拡大 図18 図17の視野を斜め上から


図17の拡大 図19の視野を斜め上から
図19 図17の拡大 図20 図19の視野を斜め上から


図19の拡大 図21の視野を斜め上から
図21 図19の拡大 図22 図21の視野を斜め上から


図21の拡大 図23の視野を斜め上から
図23 図21の拡大 図24 図23の視野を斜め上から


裏面にも表面と同様に匂い玉と考えられる山形の構造があることが分かった。図20の斜め上からの観察から、いくつかの細胞は水分があまり蒸発していないで、少し膨らんだまま残っているものがあることが分かる。

図19の左端の気孔の拡大 図19の左上の気孔の拡大
図25 図19の左端の気孔の拡大 図26 図19の左上の気孔の拡大


葉の裏側には多くの気孔があり、図19で観察した気孔を拡大した像の拡大を図25,26に示す。内部の弁がやや開いている。

異物がある視野 図27の上部の異物拡大
図27 異物がある視野 図28 図27の上部の異物拡大


図15や図27で観察できるように、いたるところに髭のような構造が認められた。図27内のそれを拡大したのが図28〜30である。いずれも同じような形状で萎んだようにも見える。また下の細胞から出ているようにも見え、表面沿って出ているようである。また水分の多い針状構造が、真空で萎んだように見える。光学顕微鏡では分解能の事もあり観察できなかった。この構造がなんのためにあるのだろうか。後の課題としたい。

図27の右下の異物拡大 図27の右上の異物拡大
図29 図27の右下の異物拡大 図30 図27の右上の異物拡大




・トマト

ハーブには属さないが、トマトの葉も独特の匂いがする。はたしてトマトの葉にも匂い玉があるのであろうか。

トマトの葉 トマトの葉の表面の光学顕微鏡像
図31 トマトの葉 図32 トマトの葉の表面の光学顕微鏡像


図31は我が家で栽培しているミニトマトの葉である。その葉を光学顕微鏡で拡大して斜めから観察したのが図32である。あった、ハーブと同じような匂い玉(腺毛)らしきものがあることが分かった。トマトの匂いも、ここから出ているのであろう。
詳細をSEMで観察した。図33〜38は順次拡大して観察した結果である。

トマトの葉の表面のSEM像 図33の拡大
図33 トマトの葉の表面のSEM像 図34 図33の拡大


図34の拡大 図35の拡大
図35 図34の拡大 図36 図35の拡大


図36の右側拡大 図36の左側拡大
図37 図36の右側拡大 図38 図36の左側拡大


前回のゼラニュームで見たように、キノコ状の腺毛があることが分かった。残念ながら、その柄の部分は、水分がより多いらしく、真空中で内部の水分が抜け、ひしゃげていた。しかし頭部は少し硬いようで、少し萎んではいるが、形状は残っているようである。

他の場所の匂い玉 他の場所の匂い玉
図39 他の場所の匂い玉 図40 他の場所の匂い玉


他の視野(図39,40)の匂い玉も同じような形状をしていた。
頭部は四つの膨らみからできているようだ。



トマトの葉の裏面も観察した。その結果を図41〜45に示す。

トマトの葉の裏面のSEM像 図41の拡大
図41 トマトの葉の裏面のSEM像 図42 図41の拡大


図42の拡大 図43の拡大
図43 図42の拡大 図44 図43の拡大


図44の拡大 他の場所の匂い袋
図45 図44の拡大 図46 他の場所の匂い袋


葉の裏面にも匂い玉があることが分かった。しかし、柄が柔らかいようで、真空処理で特に柄の部分が萎れている。他の視野の匂い玉(図46)も同様に、頭部は四つの膨らみから構成されているようだ。

光学顕微鏡拡大像 トマトの匂い玉の予想図
図47 光学顕微鏡拡大像 図48 トマトの匂い玉の予想図


図47は光学顕微鏡でできるだけ高倍で匂い玉を上から撮影した像である。頭部は四つの膨らみから構成されているようだ。光学顕微鏡とSEM像の観察から、トマトの匂い玉(腺毛)の予想図を描いたのが図48である。

今までいくつかのハーブと最後にはトマトの葉の表面も観察してきた。いずれの植物も、発散する香りは、葉の表面にあるキノコのような形をした腺毛の先の匂い玉内にある精油が揮発して生じるようであることが分かった。厳密には、精油の成分を分析しなければならないが、おそらく予想通りであろう。
またハーブティーやアロマオイルとして使う時は、精油を絞り出すが、これは匂い玉内にある精油を集めることになるのであろう。







                               -完-









タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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