■ ハーブの匂い玉はどこに3(ゼラニュームとセンテッドゼラニューム)
今までハーブの匂い玉について観察してきたが、我が家の居間で育てているゼラニュームはどうなのかなと思った。ゼラニュームは鮮やかな花を咲かせるので、窓辺にもよく飾られ親しまれている。しかし近づくと独特の匂いを発し、今まで取り上げたハーブのような心地良い香りはしない。多分、この匂いが好きな人はいないのではないだろうか。この植物にも匂いを発する匂い玉(腺毛)があるのだろうか。 ・ゼラニューム
図1は我が家の居間で咲いているゼラニュームである。多分どこの家庭にもある種類である。花は鮮やかでとても美しいが、近づくと薬のような匂いがする。気持ちを和らげるような匂いではない。図2は葉の写真である。
図3は、光学顕微鏡で葉の表面を上から観察した写真である。匂い玉にピントを合わせると葉の表面がボケてしまう。腺毛の柄の長さが長いようである。そこで葉の表面を真横から観察した。その結果を図4に示す。表面から突き出ているマッチ棒のような組織がある。これが腺毛のようである。先端の露のような玉は匂い玉であろう。玉はほぼ透明で、その直径は約50μmである。今まで観察したハーブの匂い玉と同じようであるが、柄が長いのが特徴的である。この玉の中にゼラニューム独特の匂いの素が含まれているのであろう。 今までと同じように、葉の表面をSEM観察した。柄の高さも観察したいため、ゼラニュームの葉の表面を約45度傾斜して観察した。その結果を図5〜8に示す。
ゼラニュームでは、今まで観察したハーブとは異なり、灯台を思わせる、非常に長い柄の上に匂い玉がついている構造である事がわかった。図7から柄の長さは、約45度試料傾斜も考慮すると、約250μmであることが分かった。今まで見たハーブの匂い袋の柄はせいぜい玉の直径くらい(40〜50μm)と短かった。匂い玉は図3、4ではほとんど球状に見えるがSEM写真では、真空で少し萎んだと考えられる。匂い玉の直径は約40μmである。
他の視野でも図9、10に示すように柄の長いことが分かった。表面には、腺毛の他に、匂い玉がない針状の刺毛もある。さらにキノコのような組織も多く認められる。これは成長前の若い腺毛であろう。その様子を図11〜14に示す。
図14で示す若い匂い玉も柄もほぼ原形を保っているようである。柄の長さは玉の直径くらいであるが、これが図7のようなゼラニューム特有の背の高い腺毛に成長するのであろう。 花の観賞用に育てられているゼラニュームには、柄の長い腺毛があり、その匂い玉内に独特な匂いが詰まっているのであろう。 ゼラニュームの葉の裏側も観察した。
図15、16は葉の裏側の光学顕微鏡写真である。両写真の下部は葉脈部である。葉身の部分にも葉脈の部分にも 表側と同じように腺毛が沢山生えている事が分かった。匂い玉の色はやや黄色みかかっているようだ。表側と成分が異なるのかもしれない。 SEMで順次拡大して観察した結果を図17〜20に示す。
柄が脱水されて萎んだものもあるが、図19の腺毛は比較的形が崩れていないようである。図20に示す先端の匂い玉は、脱水でやや変形している。その他の視野の腺毛と若い芽の観察結果を図21と22に示す。
以上の観察から、葉の表裏で同じような腺毛があることが分かった。 次に茎の表面も観察した。
図23、24は光学顕微鏡像である。図23は茎全体を、図24は片方の表面を拡大して撮影した写真である。茎にも腺毛が沢山生えている事が分かった。また匂い玉の色はやや黄色で、葉の裏と同じようである。 腺毛を拡大して観察したSEM像を図25〜28に示す。
脱水効果で、柄の部分が萎れている腺毛もあるが、図27は比較的変形していない腺毛である。匂い玉はやや脱水され変形しているようだ。 ゼラニュームの腺毛について観察してきた。葉の表裏、茎にも多くの腺毛が生えていて、その大きさは高さが300μくらいで、匂い玉は40μmくらいの八頭身のこけしの様でもある事が分かった。 娘の家を訪ねた時、ベランダにゼラニュームに似た植物が幾鉢もあった。娘からゼラニュームにも良い匂いの品種があり、それらが好んで育てられていることを聞いた。早速その葉を持ち帰った。インターネットで調べると、品種改良されて、ハーブと同じように良い香りを出すゼラニュームが栽培されるようになったようだ。これらは、従来の花を鑑賞するゼラニュームと区別して、センテッドゼラニューム(においゼラニューム)と呼ばれている。 図鑑を調べるとその種類に驚いた。花も葉も同じようで、持ち帰ったゼラニュームの種類の判定は難しかった。そこでここではセンテッドゼラニューム1、センテッドゼラニューム2と呼ぶことにした。 ・センテッドゼラニューム1
図29は最初に選んだセンテッドゼラニュームで、葉の形が独特(図30)である。花や葉の形から、これはローズゼラニューム種のようだ。確かに良い匂いがする。
図31は葉の表側の光学顕微鏡像であり、図32は裏側の光学顕微鏡像である。いずれの面にも匂い玉が認められる。 表側の腺毛を順次拡大して撮影したSEM像を図33〜36に示す。
平面像では、柄が認められない。試料を80度くらい傾斜して匂い玉を観察した結果を図37〜39に示す。
匂い玉の下の柄は、せいぜい匂い玉の直径くらいであり、前回、前々回で観察したハーブの匂い玉によく似ている。他の視野の匂い玉を図40〜42に示す。ほとんど同じような形をしている。
・センテッドゼラニューム2 もう一つのセンテッドゼラニュームとして、葉の形がゼラニュームによく似た種類を選んだ。アップルゼラニュームでないかと思う。その花と葉っぱを図43と44に示す。図2のゼラニュームに比べ、葉の先に少し凹凸があるが、遠くから見ると同じように見えた。
この葉の表側を光学顕微鏡で観察した結果を図45に、裏側を図46に示す。匂い玉は薄黄色や透明なものが認められる。 SEMで順次拡大して観察した結果を図47〜50に示す。
この葉では、匂い玉は多くの刺毛の中に存在している事が分かった。 試料を傾斜して観察した結果を図51、52に示す。匂い玉の直径は約40μmで、その下の柄は20μm位である。
葉の裏側も同じような構造であった。斜めから観察した結果を図55と56に示す。
以上、花を楽しむゼラニュームと香りを楽しむセンテッドゼラニュームの腺毛(匂い玉)について比較して観察した。その結果、匂いが良いセンテッドゼラニュームは他のハーブと同じような短い柄の上に匂い玉を持っている事がわかった。それに対し、匂いがあまり良くないゼラニュームの匂い玉は、300μmほどもある柄があり、その上に匂い玉が乗っている構造である事が分かった。残念ながらSEMでは両者の匂い袋の成分が分からないが、それは別の分析屋さんに期待したい。 -完- | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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