■ 蜜と花粉を集める蜂(セイヨウミツバチ2-触覚、脚、複眼)
前回は、一匹だけ採取したセイヨウミツバチの口吻と針(産卵管)の構造を観察した。今回は、残りの体の他の部位である触角、脚、複眼を観察した。 図1はコスモスの蜜を舐めているミツバチの写真である。コスモスはキク科の植物で、黄色い部分には小さな花(管状花)が集まっている。ハチは頭部前から出ている長い触角を管状花に当て、蜜の匂いや味を探し、そこに口吻を差し込んで舐めているようである。
・触角 まず、蜜を探す触角を順次拡大して観察した。その結果を図2~7に示す。
触角は12の節からなる円筒状で、表面には毛状と円盤状の感覚器官があることが分かった。これらの器官を花の中に入れ、接触、味、匂い、温度、湿度などが感知されるのであろう。円筒状触角の直径は約200μmであり、先端は半球状になっている。 ・前脚 次に、前、中、後脚の構造を調べた。ミツバチは脚を使って花粉を採集するので、どのような構造になっているのか、興味を持った。
図8は前脚の光学顕微鏡像である。中央で屈曲しているので全体にはフォーカスが合わない。右下写真は、脚中間の屈曲部の拡大像である。脚の屈曲部には触角を掃除する器官(クリーナーと呼ばれている)があると言われている(文献1)。図1を見ると、確かに触角に黄色い花粉が付いている。我々の手のように前方をまさぐる触角は、汚れが激しいのであろう。クリーナーに注目して、その構造を詳細に調べた。
図10は図9の屈曲部の拡大であり、図11、12は半円柱状の穴を真上から見られるように試料を順次回転して撮影した像である。また図13は図10の裏側から観察した像である。窪みの開口部に、爪のようなものがある。おそらく触角を挟む役目をしているのだろう。 図14は、試料を5度ずつ回転しながら撮影した像から作成したアニメーションである。
これらの結果から、屈曲部にあるクリーナーは、半円柱状になっていて、円弧には櫛状の突起列があること、また掃除する触角を固定する爪があることが分かった。 次に、円形櫛を思わせるクリーナーの突起列を拡大して観察した。まず、円形櫛のやや内側から観察した。その結果を図15~18に示す。
少し試料を傾斜して、櫛歯のやや外側から観察した。結果を図19,20に示す。
さらに櫛歯を真上から観察した結果を図21,22に示す。
円形櫛をいろいろな角度から観察したが、櫛はかなり複雑であることが分かった。図18のような先に縞状の凹凸で触角についた花粉などを梳くのであろう。
図23,24は円形のクリーナーに触角を挟み込む爪の拡大像である。 以上観察したクリーナーに本当に触角がはめられるのか確認したくなった。
図25は触角の先端を正面から撮影した像である。図25の触角の先端部をコピーして、図12の円形クリーナー部にはめ込んでみた。その結果を図26に示す。直径約230μmの触覚が円形クリーナーにぴったりはまった。合成像ではあるが、おそらくこのようにして触角を掃除するのであろう。 ・中脚 中脚の光学顕微鏡像と同じ視野のSEM像を図27,28に示す。
中脚も直毛で覆われている。特に注目したのは、屈曲部にある大きな針状の爪である。 それを拡大すると。図29,30のように500μmほどの鋭い爪である。これは何の働きをするのであろうか。
・後足 後足は花粉を集めそれを巣まで運ぶ機能を持っているようである(文献2,3)。 その詳細を観察した。
図31は光学顕微鏡で観察した後脚の外面と、裏の内面(腹側)である。それに対応したSEM写真を図32に示す。ちょうど我々の脚の膝のように屈曲部がある。先端側が、ふ(跗)節、根元側が、けい(脛)節である(文献1)。
図33は内面のふ節部で、全面に規則正しく並べられた花粉ブラシと呼ばれる直毛がある。それを拡大して観察した結果を図34~36に示す。
整然と並んだ花粉ブラシの奥には、花粉が沢山入り込んでいる事が分かった。このブラシをさらに調べるため、ブラシの毛を立てるように試料を傾斜した。その結果を図37~39に示す。
ブラシの毛の形状は根元ではほぼ円形であるが、先端では平板(1x10μm)になっている事が分かった。 図40は、試料を90度回転して撮影した像で、ブラシの毛の下地に対する傾斜角は20~30度である事が分かった。次に屈折部を観察した。
図41は内側の屈折部であり、図42はそれを裏返した外側の屈折部の像である。特徴的なのは、内面(図41)屈曲部に熊手のような大きな櫛があることである。これは花粉を集めるために使われるようである。内面の屈折部をさらに拡大した結果を図43,44に、外面の屈折部の拡大を図45,46に示す。屈折部は図42で分かるように片側(上部)で繋がっているだけで、下部は分かれている。
内面のけい節部の毛を観察した結果を図47~50に示す。
内面のけい部の毛は特徴のある形状をしていた。毛の先端は平板になっていて、三味線のバチのような形状をしている。なぜこのような形状をしていて、どのような働きをするのだろうか、不思議である。 外面のけい節部は花籠と名付けられていて、持ち帰る花粉の塊(花団子)を固定する場所である。図51は外面けい節部の全体像で、周辺に長い毛が列をなして生えていて、籠状になっている事が分かった。この脚には花粉団子がまだ付いていない状態であるが、足元に花粉が付いていたので拡大して観察した。
図52,53は花粉が付着している場所の拡大で、図54はさらに拡大して花粉であることを確認した像である。 ・考察 さて、ハチは幼虫に与える花粉をどのように集めて花粉団子にして巣に持ち帰るのであろうか。 いろいろ調べたところ、文献2,3が見つかった。文献2はビデオで、文献3では挿絵で示されていた。いずれも電子顕微鏡像はなかった。この文献を参考にして、今回観察した結果から、花粉を集める様子を考察した。その結果を次に示す。 蜜を舐めるために花の奥まで頭部や触角を差し込むと、花粉がいたるところに付く。この花粉を前足(図9)で撫でて集める。花粉は舐めた蜜を少し使ってくっつきやすくする。次に中脚で前足を挟んで花粉を中脚(図28)に移す。次に後足(図33)で中脚を挟み、花粉を後脚のふ節内面(図33)の花粉ブラシに移す。次の工程は説明が難しいので私が作成した図55を使う。花粉ブラシに貯めた花粉を、反対の後脚の屈曲部にある熊手で梳いて集める。この時花粉塊は、ふ節とけい節の割れ目(花粉プレスと呼ばれる)から、外面の花粉籠に押し出される。花粉籠の表面には長い毛があり(図45)、これが串の役目をして花粉団子を作る。さらに中脚などを使って花粉団子を固める。このようにして花粉籠に大きな花粉団子が固定できる。それを巣に持ち帰り幼虫に食べさせる。別の文献には、中脚の屈折部に観察した爪(図29)を使って花団子を脚から離すということだ。 なんという見事な仕組みと動作であろうか。まさに花粉団子を作るオートメーション工程を見ているようである。神様はかなり凝ってミツバチを創造されたとしか思えない。
・複眼 残りの試料から複眼を観察した。その結果を図56~61に示す。
驚いたのは、複眼全体に毛が生えている事である。これでは物を見るのが相当難しいのではないか。しかし、蜜を舐めるときに花粉が直接複眼に付着して画素を失うよりは、毛で覆ったほうが軽傷になるのであろう。触角が発達しているミツバチにとって視覚はそれほど大切ではないのだろうか。その理由を神様にお聞きしたい。 参考文献 1. Mark L. Winston:The Biology of the Honey, First Harvard University Press(1991) 2. NHK Eテレ:ミクロワールド「だんご職人 ミツバチの秘密」 http://www.nhk.or.jp/rika/micro/index_2010_001.html 3. Harun Yahya:Miracle of the Honeybee, Norwich,UK.(March 2007) -完- | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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