■ 蜜と花粉を集める蜂(セイヨウミツバチ1−口吻、針)
前回までは、我が家の屋根によく巣を作るコアシナガバチを観察してきた。コアシナガバチは肉食で、大顎で芋虫や毛虫を食べてくれるので有難いが、もっと我々に役立ってくれるのはミツバチである。 是非ミツバチも観察したいと、庭の花に来るハチを何匹か採取した。図鑑を見ながら確認した結果、セイヨウミツバチと断定できるハチを一匹採取できた。この貴重なハチを大切に観察することにした。
図1は採取したセイヨウミツバチの外観であり、図2は口吻部の拡大写真である。文献(1)(2)から部位の名前を記入した。通常観察する花の蜜を吸っている口吻は、口先が尖った三角形に見える。ガラスビンの中で餓死させたが、その時に口吻内部を出したと考えられる。通常は中舌が下唇鬚(かしんしゅ)の中に収められ、それを外葉が覆っていて、長い三角形に見えるのであろう。今回のミツバチは部位が出ていて区別して良くわかり、観察には好都合であった。
解説書によると、セイヨウミツバチとニホンミツバチの区別法として、後翅の翅脈の形状比較がある。図3は今回観察したセイヨウミツバチの翅であり、図4は別途採取したニホンミツバチと考えられるハチの翅である。○部を比較すると、セイヨウミツバチの赤○部では、翅脈は小文字のhの形状をしているのに対し、ニホンミツバチの青○部では、大文字のHのように対象的な形状をしているのが分かる。また図3のB部分には、コアシナガバチで観察した、後翅と前翅を連結しているフックが認められる。 ・口吻の構造 ミツバチと言えば、花から蜜を吸う姿がまず浮かぶ。どのようにして蜜を吸っているのであろうか。そんな疑問から、まず口吻の構造を調べた。
図5は図1のミツバチの頭部正面(写真では下側)からSEMで観察した写真である。図6は図1のミツバチの上方(写真では右側)から観察した写真である。中舌、下唇鬚、外葉の関係がよくわかる。通常、中舌は縮められ、下唇鬚の中に納まっているようである。花の中に下唇鬚を押入れ、蜜があるのが分かると、中から中舌を出して、蜜を吸うのであろう。 さて、蜜を吸う中舌を拡大して観察する。蜜を吸うと言われているので、観察する前は、中舌は蝶のような筒状であろうと想像したが、意外であった。 図7〜12は順次中舌を拡大して観察した結果である。
中舌の表面は毛で覆われ、先は半円状であった。少し傾けて、真横から観察したのが図13,14である。
先端は、まさにスプーン状になっていることが分かった。これで、花の奥の花盤を押して、蜜を絞りだすのであろうか。 また、蝶のように、筒状ではなさそうである。そこで、いつものように、断面を観察することにした。
図15には、中舌を切断した場所を示す。図15を観察した後に試料を切断するので、安全カミソリでできなく、実体顕微鏡下で、ハサミで切断した。ハサミは切るというよりは、挟んで切断するので、あまりうまく切断できなかった。結果を図16〜20に示す。
Cut1とCut2の断面を分かりやすくするため、写真上をなぞったのが図18である。断面に空洞が認められるが、小さく、また神経などが詰まっているようである。
図19,20は中舌の根元部の断面である。中舌の内部は詰まっていて、蜜が通る空洞には見えない。 インターネット動画で、ミツバチが蜜を吸っている様子が撮影されていた。よく見ると、中舌を出したり引っ込めたりしている。 今までの観察から、ミツバチが蜜を取り込むのは、ストローのようなもので吸うのではないことが分かった。ヘビやカエルのような長い舌を持ち、それを伸ばして蜜を毛や溝に含ませ、下唇に取り込むことが分かった。すなわち、吸うのではなく、舐めるのだ。だから説明書では中舌という名前が付いているのだ。このような事は、今まで見た図鑑などでは説明されていなくて、気が付かなかった。 その後文献(3)を見たら、図18とほぼ同じ説明図があった。このような断面構造をしているので、柔軟に曲げたり、伸び縮みができるのであろう。 次に図7で観た下唇鬚の先端部を拡大して観察した。
図21,22は下唇鬚の先端部拡大である。先端には感覚器を持つと考えられる毛が生えている。ハチは花に止まると、下唇鬚を中に入れて、先端部の毛で、蜜を探し、確認するのであろう。 セイヨウミツバチの口吻の微細構造を観察し、どのようにして蜜を体内に取り込むかを調べてきた。 花に止まったミツバチは、長い三角形の口吻(中舌+下唇鬚+外葉)を花の中に挿入する。下唇鬚の先の触覚で蜜のあり場所を探り、ありかが分かると中舌を長く出し、スプーン状の先で押して蜜を出す。蜜は中舌の溝や毛に含まれる。中舌をひっこめ、下唇鬚の中に入れて絞り、それを体内の蜜胃に蓄えて巣に持ち帰る。 ・針(産卵管)の構造 ハチに刺されることがあるが、その針は産卵管が変化したものである。女王蜂の産卵管は産卵に使われるが、働きバチの産卵管は、敵を攻撃する武器の働きをする。採取したハチは働きバチであるので、武器となる針の構造を観察した。
図23は尾部で、針が出ているのが分かる。飢餓で攻撃のため針を出したまま死んだのであろう。図24は針部の拡大写真である。先端にわずかな凹凸が認められる。
図25は図24の視野をSEMで観察した写真である。長さは約800μmで太さは約70μmである。図26は先端部の拡大であり、図27はさらに拡大した写真である。先端部に返し棘があるのが分かる。この試料を左に90度回転し、図27の下部の棘を上から観察したのが図28である、おろし器の凹凸に似ている。
図27の試料を右90度回転して、写真上部の棘を観察したのが図29〜32である。
ここでも、引っかかりやすい棘が観察できる。棘の大きさは約15μmである。針は、ヘラと返り棘を持つ二本のメスからできているようである。 次にいつものように針の断面観察をして内部構造を観察した。
図33は針の先端から順次切り取り、断面を出して観察した結果である。@は先端部で、Eは根元に近い部分である。ABの穴の中に液体状の物が詰まっているように見える。これは毒液であろう。構造を明確にするため、図33の写真上をなぞった結果を図34に示す。
図34の青色と緑色が、かえり棘のあるメスである。これを支えているのが肌色の刺針鞘(ヘラ)である。注目すべきことは、コアシナガバチと同じように、刺針鞘(ヘラ)とメスがガイドレールで繋がっている事である。二本のメスを交互に前後に動かすことにより、敵の体内に針を刺し込める。中の洞には毒液が運ばれ、敵の体内に注入できる。 今回はセイヨウミツバチの口吻と針の構造を観察した。特に口吻の構造は意外だった。詳細を観察すると、新しい発見があるのが嬉しい。この一匹の試料を大切にして、次回は脚を観察したい。 文献 (1) 山田養蜂ミツバチ研究支援サイト http://hobeey.bee-lab.jp/hobeeydb/db01/index.html (2) M.L.Winson:The Biology of the Honey Bee http://books.google.co.jp/books/about/The_Biology_of_the_Honey_Bee.html?id=-5iobWHLtAQC&redir_esc=y (3) R.E.Snodgrass : Anatomy of the honeybee,1910 http://www.extension.org/mediawiki/files/e/e0/AnatomyoftheHoneyBee.pdf −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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