■プラントオパール(稲-2)
前回、稲の葉の断面観察で、プラントオパールを観察することができた。プラントオパールは30〜50μmの扇形の押し寿司のような形をしているのが特徴であった。また、プラントオパールは葉の表側にあることが分かった。 今回は、プラントオパールを中心に、さらに高倍率で観察して、その微細構造を調べることにした。 プラントオパールの微細構造 ほとんどのプラントオパールは、素焼きのように隙間のある構造でできていることが分かった。いくつかのプラントオパール表面を観察した結果、表面の凹凸や粒度に差があることが分かった。 最初に示すプラントオパールAは、小さな顆粒の緻密な構造の例である。
緻密なプラントオパールAを拡大して観察した結果を図1〜5に示す。図5からプラントオパールは顆粒を固めたものであることが分かった。粒の大きさを測定した結果、小さい顆粒の直径は約40nm(0.04μm)、大きな顆粒の直径は約100nm(0.1μm)であることが分かった。これらの粒が細胞の中で蓄積され、それが積み固まって素焼きのようなプラントオパールが形成されるのであろう。 次に、図6で示す、表面がやや粗密なプラントオパールBの観察結果を示す。
粗密に見えたプラントオパールBの強拡大像で顆粒の大きさを測定すると、80〜160nmで、緻密なプラントオパールAの粒の2倍くらいであることが分かった。図4と図9を比較すると、後者の表面の凹凸が著しく大きい事が分かる。このことから、ここで見た粗密度の異なる表面状態は、顆粒の大きさだけでなく、その粒で形成される表面の凹凸にも差があることがわかった。プラントオパールBはプラントオパールAに比べて、粗雑に作られたのではないか。それは、細胞の水とか栄養などの環境の差によるかもしれない。 顆粒だけでなく、アスファルト舗装のように、粒と接着剤のようなもので仕上げられているプラントオパールCもあった。次にそれを紹介する。
プラントオパールCの表面は、図14に示すように、ローラーをかけられたアスファルト舗装のように、ペーストが付いた顆粒が平坦に並んでいる。図14から顆粒の大きさは60〜120nmで、比較的粒がそろっている事が分かった。 さらに表面が滑らかになっているプラントオパールもあった。その例をプラントオパールDで示す。
図18でわかるように、プラントオパールDでは粒がペーストに埋まった状態で、顆粒がほとんど見えない。 ハサミで切削して横断面を作成した試料で、硬くて劈開されたと思われるプラントオパールEがあったので、拡大して劈開面を観察した。
特徴的なのは、図20,21で認められるように、劈開面にガラスの割れた面に見られる貝殻模様(規則的なステップ)があることである。この像から判断すると、このプラントオパールEの内部はガラス状に固まっていると判断できる。図22の左側に見える表面には粒状構造が見られる。しかし、すべてのプラントオパールの内部がガラス状になっているわけではない。 多くのプラントオパールの切削面には粒状構造が認められた。その例をプラントオパールFに示す。
プラントオパールFの切削面と思われる面には、図4や9で観察したような、表面顆粒構造と同じような像が認められる。このプラントオパールの内部は、表面と同じような顆粒構造をしていると考えられる。 プラントオパールの形成過程について推論をする。土壌から吸い上げられた含水珪酸体は、 葉の細胞の中に取り込まれ、ここで40〜100nmの顆粒に固められる。その粒がある細胞に集められて固まり、プラントオパールと呼ばれる数十μmの塊となる。中には粒子間の緻密度が高まり、内部が硬いガラス質になるものもある。この硬化が時間的なものか、水や日光などの環境によるのかは今後の課題としたい。またどうして、稲葉のプラントオパールは扇形で、何の役目をするのか、疑問が残る。 8の字構造 前回の観察で、プラントオパールは8の字列の畝の間の谷部にある事が分かった。8の字構造は規則正しく、また大変魅力的な形をしていたので、その微細構造を調べた。
8の字構造や小突起の表面全体には、パン粉のような粒子が散在している。動物に体毛があるように、体を保護したり外界の様子を感じるのであろうか。それにしてもこの8の字構造は、どんな働きをするのであろうか。形状をもっと知りたくて、同じ視野を手前に傾斜して、斜め前から観察した。その結果を図31〜34に示す。
8の字のパネルは、二本の円柱の上に屋根のように横たわっていた。こんなに何枚も規則正しく並んでいると、今話題の太陽光発電のパネルを想像する。この構造の機能はまだ調べていないが、ひょっとしたら、稲の葉が光合成するために、光を受光する羽根であろうか。 同じような別の視野も
特に図38では、表面の粒子の形状が明確に見える。約100nm径で長さが800nmくらいのひも状の粒子であることがわかった。それらの長い粒子は、よく見ると100nm以下の細かい粒が連なってできていることが分かった。この粒が細胞から表面に排出され、網目構造を形成するのは、家の壁にモルタルを塗るように、表皮を保護するためであろう。 小突起構造 葉の表面のいたるところにある小突起構造についても拡大して観察した。
突起には、先が尖ったものと指のような丸いものがある。いずれの突起にも8の字構造と同じようにひも状の粒子が散りばめられている。ただし、先が尖った針状突起は丸突起より高く、先端にいくほどひも状粒子はなくなった。 以上、プラントオパールの顆粒構造と8の字構造や小突起の表面を覆っているひも状粒子を観察してきた。古代に稲作があったかどうかを調べるのに、地面に残ったプラントオパールが貴重な資料になるようである。しかし、稲は何のためにプラントオパールを生成しているのであろうか。ひも状粒子の網は、稲の葉を風や水に対して強くする機能はありそうである。これが有機物でなく珪素系の物質であるかも確かめたい。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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