■蚊の見事な能力2(複眼)
このカフェテラスでは、面白そうな生物や乾物などを、まず電子顕微鏡で探索して、それらの巧みで美しい構造を観察し、発見する楽しみを味わう事を第一にしています。従って、ある程度観察して推察した後、本やインターネットで他のデーターや解説を調べ、納得したり、さらなる疑問を持ったりする過程を楽しんでいる。 今回紹介する複眼の微細構造は、複眼をきれいに撮影するため、倍率を大きくしてピントを合わせようとしたときに、何か微細な構造が複眼表面にあることを発見して、それを調べた結果である。 今まで観察したアリやカマキリなどの複眼は、きれいな半円球の目が沢山並び、その間には毛などが生えていた。しかし、半円球の表面は滑らかであった。 蚊の複眼を倍率を上げながら観察した結果を示す。
図1は蚊の頭の上から観察した像である。複眼は大きく、人間の顔の頬にあたる部分全体を複眼がしめている。人間の頭髪にあたる部分には、鱗粉が被っている。図2は複眼を取り出して観察した低倍写真である。単眼がドームの表面全体に密集している。それを拡大したのが図3である。ほぼ半球状の単眼がミカンを詰めたように、整然と並んでいる。さらに拡大すると(図4)、表面に何か微細構造があるように見えた。 表面がきれいな単眼をと、複眼の端の方を見たら、単眼が割れている視野があったのでその部分を含めて拡大して観察した。
図5〜8は微細構造を観察するために、同一視野を拡大して撮影した結果である。割れている視野を選んだので、微細構造の表面像だけでなく、断面像も得られている。複眼は多数の単眼の集まりであるが、その各単眼の表面にも無数の半球状の微粒子が並べられている構造である事が分かった。
その大きさを整理すると、蚊には直径約500μmの複眼が左右にあり、その複眼のドーム状の表面には直径約20μmの単眼が1000個くらい並んでいる。各単眼のミニドーム表面には、直径150〜200nmの半球状の微粒子(図9)が無数並んでいることが分かった。 さて、単眼表面の無数の粒子は何のためにあるのだろう。 インターネットで検索した結果次の説明が見つかった。 まず、モルフォチョウの構造色でおなじみの木下修一先生のホームページ(文献1)に、 蛾の複眼に光りの波長より短い突起があるが、それは反射防止膜の機能があると書かれてあった。前に購入した木下先生のモルフォチョウの本(文献2)を読み直してみると、随分詳しく書いてあった。
本に書かれた内容を図11を使って説明すると、可視光の波長(380〜770nm)より細かい凹凸があっても、光りは波長以下の構造は認識できず、微細構造部は、空気と微細構造の平均的な屈折率を持つ膜があると同じ効果になる。空気、微細構造膜、複眼と順番に屈折率が増す層では、微細構造膜表面および複眼表面で反射した光は、お互いに微細構造膜内での位相変化だけずれる。この膜内での位相変化が波長の4分の1に近いと(往復2分の1)、二つの反射光は打ち消しあって、結局、外に出る反射光は減衰する。この原理はメガネなどの反射防止膜に使われている。蚊の複眼もこのような原理から、反射光を少なくして敵に見つからないようにしていると説明されていた。なるほどと思った。確かに、図11で分かるように、蚊の複眼は真っ黒である。これは反射光が無いためであると説明できる。 さらに、科学技術振興機構のホームページの「Science Portal China」の部屋の中国科学技術月報(第20号)に、江氏が「バイオミメティックスに学ぶ機能材料」という特別寄稿を出され、その中で蚊の複眼にナノ構造があり、それがハスの葉の表面と同じく接触角が大きくなるので撥水性を持つと説明している。だから蚊は水辺や湿気の多いところでも、目を曇らせないで活動できるのではないだろうかと結んでいる。 以上の2説もなるほどと思わせる説明である。何気なく見つけた複眼表面の微細構造が、実はサイエンスとして、深い意味があるようである。 参考文献 1) ホームページ 木下修一:反射防止膜、「自然観察」 http://skino49.web.infoseek.co.jp/index1-1.html 2) 木下修一:「モルフォチョウの碧い輝き」、化学同人(2005) 3) ホームページ 江雷:バイオミメティックスに学ぶ機能材料、 http://www.spc.jst.go.jp/report/ 科学技術振興機構、「Science Portal China」、中国科学技術月報(第20号) −完− | ||||||||||||||||||||||
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