■お御足を拝見します(カミキリムシ)
前回観察したアリを軽自動車に例えるなら、今回紹介するカミキリムシはダンプカーである。体長3センチもあるカミキリムシが、ガラス窓に止まっていた。このように大きな昆虫がどうしてガラス面に止まれるのであろうか。我が家のガラス窓に止まっていたカミキリムシに協力(?)してもらい、そのなぞを解き明かすことにした。 図1はカミキリムシの全体像である。背中には黒地に白い斑点がある。図鑑から、和名はゴマダラカミキリムシであることが分かった。髪をも切るということからカミキリという名前が付けられたようである。髪をも切る大アゴも興味があるが、今回は足裏に注目して観察した。
体長が大きいため、足を切り取って観察した。図2は前足、中足、後足の着地する足裏の顕微鏡像である。先に爪が、その下にはハート形の符節が3個も繋がっていた。大型ダンプカーでは、重量を和らげるため、車軸にダブルタイヤが取り付けられているが、カミキリムシはトリプルタイヤが取り付けられていることになる。大きな体を支えるには大面積の足裏が必要なのであろう。 これらの足裏全体をSEMで撮影した。その結果を図3a〜3cに示す。
いずれの足も、形状はほとんど同じであった。すべての足が同じように、体を支え、動く役目を担っているのであろう。3個の符節裏にはブラシのように全体に微毛がある。 これらの表面構造をSEM観察した。ここで紹介する代表的な観察場所を図4にアルファベットで示す。なお、各符節の名前は爪から順に、第一、第二、第三符節と呼ぶことにする。
最初に図4中の□cで示す爪の部分を観察した結果を示す。
爪は柄の部分には毛が生えているが、先端部は生えてなく、牛の角のような形状をしている。図5bは爪の間を拡大して観察した像であるが、アリで見たような複雑な構造はなかった。カミキリムシの場合、この爪は、木などに引っ掛けてつかまったり、獲物をつかまえるための働きをしているようだ。 次に前足の第三符節の中央□d部を観察した結果を示す。図6aに示すように、表面はブラシのように無数の微毛が生えていた。
それを拡大していくと(図6b,6c,6d)、各微毛の先はミミカキのように先は幅広く、凹面の形状をしている事が分かった。図6dの中央に見られる構造は、周囲が膨らみ、吸盤の働きをするように思える。前に観察したテントウムシのようなきれいな形状はしていないが、これが吸盤の働きをして、ガラスに吸着できるのではないかと考えた。 図7は後足の第二符節内側□eの表面を観察した結果である。
第二符節の内側e部でも、拡大すると微毛の先はミミカキのようになっていて、周囲に土手があり、吸盤の働きがあるように見える。子供の頃お風呂などで、手の指を揃えて凹みを作り、水面につけると、吸盤のようになり、水を持ち上げて遊んだ事を思い出す。 符節の周囲でも、ミミカキ状の微毛が認められる場所があった。その様子を図8に示す。場所は第二符節の第三符節側の□f部である。
この場所では、微毛は少し長いが、先端では図8c、8dのようにミミカキ状になっていた。いずれも周囲は土手になっていて、吸盤の働きもできるようである。くぼみ部を手のひらに例えると、裏側の手の甲部に小さな突起が何個か認められる。これがどんな機能を持つかは分からないが、くぼみを押し付けるときに力が入りやすくなっているのではないかと想像する。 符節の周辺部では、微毛が何本か束になっているところが多かった。 前足の第二符節○g部の観察結果を示す。
はじめ粘液でも付着しているのではないかと思ったが、図9dのように拡大すると、今まで見たミミカキ状の毛が何本も束になっている事が分かった。 次に、中足の第一符節周辺の○h部の観察例を示す。
一番外側の微毛の先端は針状でミミカキ状の構造はなかった。しかし、二列目からはミミカキ状の微毛や、束になった微毛になっている。 次に一番爪に近い、第一符節の端部○i部の観察結果を示す。
この部分の微毛は長く、その先は一本が独立しているものもあるが、束になっているものが多い。しかしいずれの微毛も、先端部はミミカキ状である。
図11dの中央微毛の強拡大像を図11eに示す。この先端形状は、図11fに示すように、人の手を付着面に当てているように見える。その形状を巧みに変えながら、着地面に密着をしているのではないかと考えた。それらを手とすると、カミキリムシは一体何本の手を持っているのであろうか。無謀だが拡大した写真から、ミミカキ状の微毛先端の数を数えてみた。前足の第一符節には、およそ3200本あった。一本の足ではその3倍とすると、約1万本の手を持っていることになる。6本の足全体では、なんと約6万本の手(微毛)を使って歩くことになる。やはり、ダンプカーのようなカミキリムシだから、体を支えるためその数が必要なのであろう。 符節の周囲には微毛が束になっている傾向であることを観察したが、全体像を拡大して、その分布の様子を調べた。その結果を次に示す。
図12は図3で微毛が束になっている部分を肌色で塗りつぶした図である。傾向としては、各符節の前方の微毛が束になっている事が分かった。束になっているのはなぜかと考えた。この肌色の部分は、馬のひずめの形状によく似ている。つまり歩くときに、一番力がかかる場所である。そうすると、力を十分出せるため、微毛は何本もが束になっているのではないかと推論したが、皆さんはどう思われますか。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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