■お御足を拝見します(ショウリョウバッタ)
9月に入ったある昼、窓に何か?よく見たらバッタが窓ガラスに止まっている。え、君もテントウムシと同じように平坦な窓ガラスに止まれるんだ! 今回はそのバッタン君の足裏を見せてもらうことにした。
窓ガラスに止まっていたのは、ショウリョウバッタ(図1)であった。申し訳ないが、虫かごに入ってもらい、後にお御足を見せていただくことにした。はたして、ショウリョウバッタの足裏にも、テントウムシのような吸盤があるのであろうか。 図2に、片身の前足、中足、後足の光学顕微鏡写真を示す。足は湾曲していたので、全体にピントを合わせることができなかった。次に、地面に着く足裏全体(踵から爪)をSEMで観察した。 ・足裏のSEM観察
足裏の長さは、後ろほど長いが、構造はほぼ似ていた。テントウムシとは異なり、四つの塊と爪からできていた。説明がしやすいように、ここでは部位の名前を踵(左)から、a,b,c,d、 爪をe部と呼ぶ。 まず、前足の部位を見ていく。
部位aはハート型で、柔らかいスリッパようであり、部位bは柏餅の皮をつまんだ形である。
部位cは唇の半分のような形をし、下地に密着しやすい構造になっている。接地部を拡大すると(図7)、ウロコ状の構造が認められた。
部位dは、鬼が大口を開けたような形をし、唇部で吸い付くような構造である。唇部(図9)には、部位cと同様にウロコ状の模様が認められる。これは、伸縮を自由にできるための構造なのであろうか。
爪e部の先端部には、左右に鋭いカマ状の爪が伸び、中間には、馬てい形の爪があった。 次に中足を観察した。
中足の部位aは、半球状で、床を傷つけないように作られた椅子の足を思わせる。部位bは、前足よりヒダが閉じている。
中足の部位c、dは前足とほぼ同じ形状をしている。
唇状の凸の表面は、足に沿った側には同じようにウロコ模様があるが(図15)、その直角方向の表面(図17)は、ほとんど凹凸のない柔らかそうな形状をしている。
中足の爪部はほとんど前足と同じで、馬てい形の爪が特徴的である。
図19の馬てい形爪の先端部の全体は硬いかもしれないが、接地する土手部(図20)は柔らかいクッションのようであり、側部(図21)には、ウロコ状の細かい凹凸がある。 次に、後足を拡大して観察すると、
部位aは同じく半球型をしているが、表面にはウロコ状の細かい凹凸がある。他の足と著しく異なるのは、部位bである。図23に示すように、太さ50μmくらいの棒状の組織があり、節がある。
図24はその棒が固定されている部分である。図25は棒の拡大像で、ここも表面はウロコ状である。
部位c、dは長方形の土手がある。
図28は後足の爪部であるが、いずれの足も同じような形をしている。先端の爪の形状を調べるため、試料を回転して撮影したのが図29である。馬てい形の爪は深さがあり、キャッチャーミットのようでもある。 ・どうしてガラス面を歩けるのかの考察 以上、前、中、後足の裏を観察したが、ガラス窓を歩ける理由をどのように理解したらよいだろうか。テントウムシでは、無数の吸盤があり、これがガラス面を滑らずに歩ける理由と考えた。ショウリョウバッタでは、細かい吸盤はない。しかし、部位cやdは、大きな吸盤のような形状をしている事が分かった。この大きな吸盤をうまく使って、ちょうどタコのように平坦なガラス窓に止まれるのではないかと考える。部位aは我々の踵のように、着地している時に体重を支える機能を持っていると考えられる。爪部cの左右に伸びたカマ状の爪は、木や草につかまるときに機能するであろう。では、爪先の馬てい形の爪はどのような機能を持っているであろうか。観察から、この構造も吸盤として働きそうである。それにしても、ショウリョウバッタの生活で、この吸盤をどんなときに使うのであろうか。 先日、NHKの番組で、昆虫カメラマンの栗林さんが、特殊カメラで、ショウリョウバッタが飛び立つ瞬間を見事に撮影していた。それを見ると、長い脚を一瞬に伸ばし、足でけって飛び立つのが分かる。飛び立つ瞬間に足が地面を蹴るが、そのとき足を地面にしっかり固定しなければならないであろう。馬てい形の吸盤の形状をしている爪は、そのときの固定機能を持っていると考えられる。 後足のb部は他にない棒状構造をしている。これはもしかして、我々のアキレス腱のようなものではないか。飛び立つとき、足首の屈伸が重要であるが、そのための機能ではないかと考えた。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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