■ツクシの中に小人が! 先日、このタイニーカフェテラスが新聞(2006年3月14日朝日新聞夕刊)の科学欄に紹介された。それが縁で、顕微鏡に関するいろいろな問い合わせだけでなく、ご無沙汰していた旧友からも便りが来た。奈良に住んでいる中野さんも、懐かしいメールをくれた。 「私も小型SEMが欲しくなりました。なぜかと言いますと、拙宅の庭には、ツクシがよく生えます。夕食に2回賞味しましたが、まだ生えてきており、今年は三度楽しめます。ツクシを摘んだ際に撒き散らされる胞子を見たばかりだものですから、ツクシの胞子はどんなんかな???と思ったりしました。これは独り言です。」 独り言といいながら、見たいという興味がまざまざと読み取れた。お礼に胞子のSEM写真をと思い、カフェテラスの道路わきに生えていたツクシを観察したところ、大変面白い事が分かったので、ここで紹介することにした。 ツクシの採取と観察 雨が降った後、私が住む団地の裏山を散歩したら、沢山のツクシが顔を出していた。
土から出たばかりの濃い茶色をしたツクシ、傘を開いて白く輝いているツクシ。芽を出したばかりのツクシは六角形の茶色い硬そうな殻で被われている。成長するとその六角の殻の隙間が割れ、図2のように殻の扉が開き、中から緑色した胞子が飛散される。 ツクシとスギナの関係が良く話題になるが、その関係を調べるため、側にスギナの芽が出ている少し枯れたツクシ(図3)を見つけ、少し掘り起こしてみたところ、地下茎で両者が繋がっている事(図4)が確認できた。やはりツクシはスギナの子ではなく、胞子を飛散させるために地下茎から芽を出す胞子茎であり、スギナはツクシが胞子を飛散して枯れる頃、別に地下茎から芽をだして成長するのである。
ツクシの中にどのように胞子が入っているのかを調べるため、安全カミソリで若いツクシを縦切りし、その断面を観察した。
中央の白い子房のような部分の周りに緑色のものが、ちょうど歯のように並んでいる(図5)。 ルーペで拡大すると(図6)、茶色の六角の殻は、下の白い組織の枝と繋がっている。また殻の下面からは、指のような長い袋が5,6本出ている。かみそりで切り取られた部分からは、緑色の粉が見える。これが胞子である。 次に、横断面を観察した。
断面の写真を撮影した後、しばらく放置しておいたら、胞子が盛り上がってきたのに驚いた。色も鮮やかな緑から白を帯びたコンポーズグリーンになった。これが、本で読んだ、胞子が乾燥すると足(弾糸)を広げる現象であると分かり、時間をおいて撮影をしなおした。それが図7と図8である。1時間もすると、指状の袋を破って胞子が外に出て弾糸を広げて膨らむのが観察された。この場合採りたてのツクシを用いたので水分を含んでいるため膨らみはゆっくり進行したが、採取して数日経たツクシを裂き、紙の上に胞子を広げると、泡を吹くように瞬く間に胞子は膨らんだ。次に図8で観察した断面をルーペで拡大して観察した。
図9はルーペで拡大して観察した胞子の拡大写真である。デジタルカメラのズーム機能でさらに拡大したのが図10である。直径0.05mm程度の緑色の玉と白い糸状の組織が見える。白い糸が、胞子から伸びた弾糸であろう。ルーペでの観察は以上にして、この胞子を小型SEMで観察をすることにした。 膨らんだ胞子のSEM観察
SEM像を映し出した瞬間びっくりした、人の群れのような像が現れたからである。大勢の子供が、プールでイモ洗い状態ではしゃいでいるようにも見えた。弾糸をいろいろな方向に伸ばし、しかもその先は手や足のように広がっている。正に小人の国を見ているようである。図12は空想本で見た火星人のように見える。 小人の頭の上からと下からと見ると、
いずれも宇宙遊泳をしている小人(胞子)を、上からと下からと観察しているように見える。このようにして、胞子は風に吹かれてツクシから飛散していくのだろう。 他には、
縄に釣り下がっている小人(胞子)も、喧嘩をしているような小人もいた。 次に、走っている小人に見える胞子を詳しく観察した。
頭部と脚部を拡大して観察すると、
脚(腿より下部)は頭部から伸びているのではなく、頭部表面にわずかに糊付けされているように見える。足(足首の先)は脚の先が平たく延ばされているようである。 頭部をさらに拡大すると、
なんと、スギ花粉の表面に観察されたオービクルと同じような1μm程度の顆粒があり、しかもその表面には0.1μm程度の凹凸があった。これが胞子にとってどんな働きをするものなのであろうか。 膨らんだ胞子のSEM観察 脚を広げた胞子の様子を詳しく調べる事ができたが、いったい膨らむ前はどんな姿なのか、どうしても知りたくなった。あの脚はどこに格納されているのか、それとも生えてくるのであろうか。金属コーティングや観察のためにはどうしても真空中に入れなければならない。しかし、乾燥すると脚を広げる性質なので、広げる前の姿を観察する事がどうしてもできなかった。専門的な研究所などでは、凍結法とか包埋法など、湿った状態で観察できる前処理法が行われているが、いずれも高価な設備と高度な技術が必要である。 諦めていたとき、ふと思い出した。それは以前に車のボンネット上のスギ花粉をセロハンテープで採取したとき、花粉がテープの粘着層に少し埋もれていたことである。ツクシが水分を含んでいる状態で、その胞子をセロハンテープの粘着層に埋め込んだら、乾燥しても変形しないのではと考えた。そこで採取して間もないツクシを割り、その胞子をセロハンテープに塗りつけた。結果は、
見事、弾糸がまだ絡まっている姿を捉えることができた(図21)。胞子の底面が粘着剤で固定され、脚を伸ばすことができなかったのである。図22には脚を半分開いた胞子を示す。
図23は膨らむ前の胞子で手が収まっているようすがわかる。図24はその一部を拡大した像で、手は腕に対応する綱が終端で広がられていることが分かる。また二枚の手をうまく重ねて、胞子の上面を被っていることが分かった。
図25は図23の向きとは別の直角方向から観察した像で、腕や脚に対応する縄のようなものが、胞子を巻いていて、左右の端は、その手や足に対応する部分が被っていることが分かった。胞子が乾燥すると、ちょうどゼンマイがはずれたように縄が解け、まず図22のように広がり、ついには図18のように縄の中央の一部のみが胞子にくっついている状態になり、風に乗って飛散する事が分かった。 セロハンテープに埋め込む実験では、胞子を埋め込んだテープをハサミで切り取り試料台に固定した。試料の端を観察したとき、ハサミで一部を切り取られた胞子を見つけた。
図27の左側が、テープの端であり、この視野の下部にも同じような切り取られた胞子があった。拡大すると、
胞子の中味の斜線は、ハサミで切り取られたときの刃形であろう。中味は発芽の栄養となるでんぷんやたんぱく質が詰め込まれているのであろう。図29には胞子の外皮がめくれているようすが見える。外皮は非常に薄い事が分かる。外皮表面には図20で観察した1μm以下の小さな顆粒と皺構造があるのが分かる。 小人の踊り 乾燥して膨れた胞子は、小人のようにいろいろなポーズを見せてくれた。そのいくつかを紹介する。
私が感じたままに題名を書きましたが、どのように見えるかは、皆さんの感性にお任せします。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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