■海竜モササウルスにも虫歯があった!?

・7000万年前

夏休みに、孫と上野の博物館で催しされていた恐竜博を見に行った。ティラノサウルスを始めとするいくつもの強大な複製骨格を見上げ、生命の不思議にただ驚くばかりであった。お土産を買いたいと言うので、売店でおそろいのTシャツを買った。出口近くで、化石が売られているのを見た。そこで7000万年前のモササウルスの歯の化石が目に入った。孫の乳歯や犬の歯等を電子顕微鏡で観察してきたこともあり、大昔の動物の歯が無性に見たくなり、購入してしまった。今回はなんと7000万年前のモササウルスの歯がどんなになっているのか、観察した結果を紹介する。

モササウルスは、海に住むオオトカゲの一種で、大きさは10mもあるものがいたそうである。海に住んでいたので、恐竜(直立歩行する爬虫類)の仲間ではなく、海竜と言われ、恐竜が活動していた中生代(2億数千年前〜6500万年前)の後半の白亜紀に住んでいたとのこと。

文献に掲載されていた想像図を参考にして描いてみた。これがモササウルスのイメージです。口の中には沢山の歯が並び、これでアンモナイト等を食べていたようである。

モササウルスの想像図
図1 モササウルスの想像図


デジタルカメラで撮影したモササウルスの歯の外観写真を次に示す。

購入したモササウルスの歯 歯の先端部拡大
図2 購入したモササウルスの歯 図3 歯の先端部拡大


説明欄には、7000万年前のモササウルスの歯であること、モロッコで採取された事が書いてある。7000年ではなく、7000万年前の動物の歯が実際に残っていたのである。それを目の当たりに見る事ができた。正に神秘的である。この歯は、小型のモササウルスの歯であるのか、2センチくらいで、それほど大きくはない。先端はさすがに鋭い。

まず横断面を観察するため、3mmくらいの先端部をペンチで割断してみた。すると見事に三角錐の先端部を割断する事ができた。切り落とした後の歯の外観像を図4に、三角錐の先端部を逆さまにして試料台に固定した様子を図5に示す。

先端を割断した歯 割断先端部の底面
図4 先端を割断した歯 図5 割断先端部の底面


少し弓なりになった歯の内側(図4の右側)に筋があり、その筋部断面は図5に示すように尖っていた。横断面の表面には厚さ約0.1mmの透明な層がある。今まで見た人や犬の歯から想像して、この層がエナメル層と考えられる。しかし、アンモナイトを食べると言われている海竜にしてはエナメル層が薄い。内部構造は硬く、7000万年前の歯がこのようにそのままの状態で残っていたとは、想像を絶する。



・エネメル質

まず、エナメル質と考えられる部分を観察した。

歯の表面を含む横断面像 エネメル質層と象牙質部
図6 歯の表面を含む横断面像 図7 エネメル質層と象牙質部


表面の100μmくらいに、柱状構造が認められた。拡大して観察すると、

エナメル質層 エナメル質拡大
図8 エナメル質層 図9 エナメル質拡大


人や犬の歯とよく似た柱状構造が観察できた。正にこれはモササウルスの歯のエナメル質である。しっかりした構造である。エナメル質の表面を拡大すると、

表面部拡大 別表面部拡大
図10 表面部拡大 図11 別表面部拡大


歯の表面、すなわちエネメル質の表面は、人や犬と同じように特別な構造はなく、柱状構造が切れ、表面は平らになっている。別の場所でも同じような構造であった。

境界部 境界部拡大
図12 境界部 図13 境界部拡大


図12,13はエネメル質と象牙質の境界を拡大して観察した像である。すでに見た人や犬の歯と同じように境界は明瞭に認められ、柱状構造から、粒状構造に変わっている。下部の粒状構造部が象牙質であろう。



・モササウルスの虫歯?

横断面像で、エナメル質のところどころにひび割れのような溝が認められた。始めは歯が古くなってヒビ割れた跡だと思っていたが、拡大して見ると、

エナメル質中の溝部低倍 エナメル質中の溝
図14 エナメル質中の溝部低倍 図15 エナメル質中の溝


図15で、この溝はひび割れでなく、侵食されたような形跡があることが分かった。 さらに拡大して観察すると、

溝上部拡大 溝下部拡大
図16 溝上部拡大 図17 溝下部拡大


図17では確実にヒビ割れした破断面ではなく、侵食された後が認められる。また図16では、侵食溝に物が詰まっているように見える。ひょっとすると、これは、モササウルスの虫歯ではないだろうか?侵食溝は象牙質にまで侵食している。他の部分も観察すると、

エナメル質中の溝B エナメル質中の溝C
図18 エナメル質中の溝B 図19 エナメル質中の溝C


図5で、表面から内部に茶色に染まった部分に対応するところは、エナメル質が侵食されていた。想像するに、化石を販売するときに、歯の表面をきれいに見せるため、表面に色を塗ったため、それが侵食溝に入り込み、図5のような茶色の放射状のパターンに染まったと考えられる。いずれも侵食されたような形状をしている。矢張り虫歯であろうか?そして、その溝に詰まっているのは、ひょっとして、モササウルスの虫歯の穴に詰まった7000万年前の食べカスではないか。想像するだけでもワクワクする。その溝を表面から見ると、

斜めから見た割れ目と溝 斜めから見た溝拡大
図20 斜めから見た割れ目と溝 図21 斜めから見た溝拡大


溝は、井戸状ではなく、表面に直線的に長く続いていることが分かった。とすると、図3の光学顕微鏡拡大像で縦にひび割れのように見える筋がこの溝ではないか。横断面で断面に直角に溝があることからもうなずける。硬いものを食べている間に表面にわずかなヒビが入り、そこに食べカスがたまり腐食され、さらに奥深くまで侵食されたのではないだろうか?正にこれはモササウルスの虫歯ではないか!



・象牙質

図6の横断面内側の平坦な部分を拡大すると、

象牙質横断面低倍 象牙質横断面中倍
図22 象牙質横断面低倍 図23 象牙質横断面中倍


1μm以下の小さな穴が無数に認められた。これこそ、今まで人や犬の歯の象牙質に認められた象牙細管ではないか。

象牙質横断面拡大 象牙質横断面強拡大
図24 象牙質横断面拡大 図25 象牙質横断面強拡大


拡大してみると、やはり象牙細管である。人と同じような構造である。細管の詳細を調べるため、横断面を観察した試料を縦に割り、縦断面を観察した。

象牙質縦断面低倍 象牙質縦断面強拡大
図26 象牙質縦断面低倍 図27 象牙質縦断面強拡大


人間の歯で観察した象牙細管とほぼ同じ構造をしているのには驚いた。

以上、化石となって採取された7000万年前のモササウルスの歯を観察した結果、現存する人や犬とほぼ同じような歯の構造(細管を含む象牙質の表面に柱状構造のエナメル質が覆っている)をしている事が分かった。体の大きさや機能は変化したが、歯の構造は7000万年経てもあまり変わっていない事が分かった。また7000万年前の生物の歯が、今になってもほとんど変化しないで保存されていたのには驚いた。タイムスリップして7000万年前の世界を覗く事ができた嬉しさ、感激、興奮、今夜は眠れないだろう。

                                         −完−





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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