■スギ花粉の正体(その5) 前回までは、自動車のボンネットに付着した、いわゆる空中に飛散したスギ花粉を観察した。花粉は3月過ぎて温かくなると、スギの雄花が破裂して飛散すると言われている。では、破裂する前の雄花の中はどうなっているのであろうか。4月3日、青梅の公園で掃い落とされたばかりのスギの枝から、雄花を採取した。紙袋に入れて保管してあった雄花を3ヶ月ぶりに取り出し、小型SEMで観察した。 ・雄花の中身
図5は採取したスギの枝である。切り取られたままなので、葉は緑色で、雄花も根元はまだ緑色をしていた。図6は一個の雄花に注目した写真である。左側は雄花の外観写真である。雄花の表面は鱗片によって保護されている。この中身を見るため、いつものように安全カミソリで切断した。その断面写真を中央に示し、同一視野のSEM像を右側に示す。雄花の中にはちょうどスミレやホウセンカの実のように、0.4mm以下のさらに小さな種状の粒がいくつも並んで入っていた。食いしん坊の私には、いなり寿司が入った弁当にも見えた。SEMでさらに拡大すると。
各々の粒は袋状になっていて、さらに小さな微粒子が詰まっている。いなり寿司の中のご飯粒のようだ。この袋は葯(やく)と呼ばれている。
図8のA部をさらに拡大すると、いなり寿司は籠の中に入った梅干のように見えてきた。梅干みたいな粒はなんと飛散したスギ花粉と同じものである。図10は葯の拡大断面像で、花粉が壊れないように布で編んで作った籠のようである。
図11はB部の拡大像で、葯に入った沢山の花粉が梅干のように見える。左端部を拡大したのが図12である。この視野では、詰められた花粉の上部がカミソリで切り取られている。中から細胞質が吹き出している。切断面を観察すると、花粉は球形ではなく、押し競饅頭状態でぎっしり詰まっている事がわかった。ちょうど出来上がった梅干を容器にびっしり詰めたようである。すなわち、花粉は出来るだけ多く詰めるように、形を歪ませて袋の中に稠密に詰められていることが分かった。この葯が破裂して外界に出ると、球状の花粉になるのであろう。 さて、雄花の中の花粉には、花粉症の原因となる抗原を含むオービクルやセキシンがあるのであろうか。袋の中の花粉を強拡大で観察することにした。
図13は葯中の花粉のSEM像である。下層の花粉はぎっしり詰まっているため変形しているが、上部で隣の力を受けなくなった花粉はすでに丸みをおびている。中央の花粉を拡大した像を図14に示す。前回3月下旬にボンネット上で採取した花粉のように突起(パピラ)もオービクルも認められ、正に飛散寸前の花粉である。オービクル構造を確認するため強拡大で観察した。
図15、16で観察できるように、コンペイトウ構造もはっきり認められ、オービクルもセキシンも十分成長し飛散した花粉と同じものである事が分かった。すなわち、雄花は大量の花粉の格納庫で、この状態でも花粉症の原因になる抗原をすでに持っている事がわかった。 さて一個の雄花に何個ぐらいの花粉が格納されているのであろうか?予想するのはかなり難しいが、強引に計算をしてみた。 雄花の中の葯はおおよそ40個と予想した。また一個の葯中の花粉数であるが、直径方向に20〜30個並んでいるとして、おおよそ15000個と予想した。40x15000=60000、すなわち一つの雄花の中には5万個以上の花粉が含まれていることになる。雄花は図5の視野だけでも50個はある。そうするとスギの木一本では雄花は5万から数十万個になり、なんと一本の木には、数十億から100億個くらいの花粉が作られ飛散されることになる。正に天文学的数字である。 −完− | ||||||||||||||||||||||||
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