■スギ花粉の正体(その3)

3. 花粉の断面構造

花粉の内部はどうなっているのであろうか? 3月22日、4月11日の試料中には、破裂したように内部が見える花粉があった。代表的な裂けた花粉を観察すると。

裂けた花粉の全体像 裂けた花粉の内部
図34 裂けた花粉の全体像 図35 裂けた花粉の内部


ちょうど突起の部分断面から割れている。この花粉はスギ花粉に間違いない。スギ花粉はこのように裂けていくのであろうか。裂けた部分の拡大像を見ると、厚さ約0.6μmくらいの皮膜があり、その上に顆粒が並んでいる構造であることが分かった。突起部も下にへそのような凸部があるだけで特別な構造は無い。しかし、熟した花粉の中もこのように空洞なのであろうか?そんな疑問を持ち、正常な花粉の中身が何とか観れないかと工夫した。

セロハンテープに採取した花粉にピンセットを押し付けたり、もう一枚のセロハンテープをくっつけて、力強く剥がしたりしたが、内部を露出した花粉を観察することは出来なかった。最後の手段として、モルフォ蝶の鱗粉の断面を作成したと同じように、両刃安全カミソリで採取した花粉付きテープを目分量で切断し、その断面を観察した。結果は期待以上に花粉が切れていて、その断面が観察できた。

花粉付きセロハンテープ断面 突起部が切断された花粉
図36 花粉付きセロハンテープ断面 図37 突起部が切断された花粉


図36はセロハンテープを含む断面像で、セロハンの厚さは約30μmであり、粘着剤の厚さは約10μmであることが分かる。花粉は接着剤の中に少し埋め込まれている。四角で囲んだ部分が花粉の断面で、左上に突起が見える。これは右上の丸で囲んだような突起の回りが窪んだ花粉を切断したものに対応する。図37はその全体像で、窪んだ部分が切り落とされ、窓のように向こうが見える。内部は実が詰まっていて、真ん中が少し空洞に見える。

突起部断面拡大像 花粉内部断面像
図38 突起部断面拡大像 図39 花粉内部断面像


細部を観察すると、表面部には皮質はなく、りんごのような実の外側に顆粒が配列されている。

他の花粉には、切断したとき内部から汁がでたように見える花粉断面があった。

汁が出た花粉断面像 汁がでた花粉の拡大像
図40 汁が出た花粉断面像 図41 汁がでた花粉の拡大像


図40の内部には汁が出たようなマシュマロ状の構造が見える。断面より前面に出ているところから、切断したときに中から出たものと考えられる。すなわちこの花粉にはかなり水分を含んだ組織があったものと考えられる。組織名については今後調べたい。また気になるのは、図40,42,43で二つの花粉の間や外側に、細い糸のような紐があることである。始めは接着剤かと思ったが、断面付近に多いので何か花粉内部の組織に由来しているようにも考えられる。之も今後の課題にしたい。

汁が出た花粉内部 隣の花粉の断面像
図42 汁が出た花粉内部 図43 隣の花粉の断面像


図40右側の花粉の全体像を図43に示す。この花粉では実が詰まっていて、わずかに汁が出ているのが分かる。

花粉断面拡大像 汁が出ている部分
図44 花粉断面拡大像 図45 汁が出ている部分


実の外側には表皮はなく、すぐ顆粒が並んでいる。図45では汁が出ている部分から紐状構造が出ているようである。汁と紐は関係があるようである。



以上、球状の正常な花粉の断面観察から、中身を見る事ができた。破裂していたものは中身が無かったが、破裂していない正常な花粉の中身は実は詰まっていて、しかも中心部には汁状の組織がある事が分かった。いずれも採取してから二ヶ月以上保管した後に切断したもので、リンゴなどの果物以上にその保水性は良い事が分かる。

3月末まで実が詰まった花粉が、どのように破裂して中身がなくなるかは良く説明できない。 5月に入って、破裂した花粉は皮膜が丸まったり裂けたりするが、コンペイト状の顆粒はまだ存在する。花粉症が4月の終わりや5月まで長引く症状と、今回観察した花粉の形状変化を比較すると、花粉症には、このコンペイト状の顆粒が著しく関係がある、すなわち原因になっている抗原体が顆粒に含まれているのではないかと考えられる。詳細は今後参考書を読んだり、専門家にお聞きして調べて行きたい。

                                         −完−





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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