■ 雨の中に含まれる花粉1(スギ花粉)

昨年は多くの台風が到来した。2005年5月の更新記事で、雨から採取したスギ花粉を観察した結果を報告した。その時は車のボンネットに残った雨粒の跡から採取した。 今回は、図1のように、ペットボトルを上部4分の1くらいから切り取り、口部にコーヒーフィルターを取り付け、図1の右写真のように、逆さにしてセットした。 こうすると、漏斗のように雨を受け、フィルターで濾されて5~10μm以上の微粒子がフィルター上に残り採取できる。図2は3月7日頃の雨で、フィルター上に残った微粒子の写真である。 黄色に見える球は約30μm径のスギ花粉である。採取した微粒子の中にはいろいろな花粉が含まれていた。 第一回はスギ花粉に注目してまとめた。

図1 雨水から微粒子を採取する漏斗 図2 採取された微粒子(スギ花粉)
図1 雨水から微粒子を採取する漏斗 図2 採取された微粒子(スギ花粉)



・3月7日頃採取

3月7日頃の雨から採取した微粒子をSEM観察した結果を図3~10に示す。
なお、実際は日にちの前後数日間セットして回収したので、頃という表現をした。

図3 代表的な視野のSEM像 図4 図3の拡大
図3 代表的な視野のSEM像 図4 図3の拡大


図3は代表的な視野の低倍写真である。ほとんどの粒にスギ花粉特有の突起(パピラ)が認められることから、スギ花粉であることが分かる。 図3の下部の拡大像を図4に示す。
図4の上部にあるスギ花粉を拡大して観察した結果を図5~7に示す。

図5 図4左上のスギ花粉の拡大 図6 図5の拡大
図5 図4左上のスギ花粉の拡大 図6 図5の拡大


図7 図6の強拡大 図8 別の視野
図7 図6の強拡大 図8 別の視野


図7の表面に付着している約500nm径の粒子はオービクルと呼ばれていて、アレルギー源を含んでいる。 図8は図3の上部の拡大像で、稀だが割れている花粉がありそれに注目した。

図9 割れた花粉 図10 図9の拡大
図9 割れた花粉 図10 図9の拡大


図9は割れて、中身が無くなっているが、その皮部(図10)にもアレルギー源のオービクルが沢山付着している事が分かる


・4月10日頃と25日頃に採取した花粉

図11 4月10日頃採取した花粉 図12 4月25日頃採取した花粉
図11 4月10日頃採取した花粉 図12 4月25日頃採取した花粉


4月10日頃に採取した花粉もかなり多く、また形状もしっかりしたのが多い。4月25日頃に採取した花粉は、量は多いが図12のように、少し萎んでいるのが多かった。


・5月3日頃の花粉

図13 5月2日頃採取した花粉 図14 破裂変形した花粉
図13 5月2日頃採取した花粉 図14 破裂変形した花粉


5月になると、採取できる花粉の量はかなり少なくなった。また萎んだり破裂したり、変形した花粉が多かった。

6月、7月にも雨中の花粉を調べたが、見つからなかった。3月頃に飛散した花粉は、その後の雨や風で、6月にはほとんどが空中から無くなったと思われる。


・8月14日(台風10号)頃採取した花粉

今年初めて日本本土、特に広島地方を襲った台風10号の雨を採取したところ、驚く結果が得られた。すなわち6、7月に観察できなかったスギ花粉が沢山観察できた。 しかも、ほとんどが損傷を受けていない正常なスギ花粉である。台風が運んできたのだろうか。

図15 8月14日頃の雨中の花粉 図16 8月14日頃の花粉2
図15 8月14日頃の雨中の花粉 図16 8月14日頃の花粉2


図17 8月14日頃の花粉3 図18 8月14日頃の花粉4
図17 8月14日頃の花粉3 図18 8月14日頃の花粉4


このような花粉が、なぜ8月の雨に含まれていたかということは後ほど検討したい。

その後、沢山の台風が日本を襲ったが、9月15日には広島地方に大きな損害をもたらした台風15号、10月14日には関東地方で堤防の決壊などをもたらした台風19号等の雨中には スギ花粉は認められなかった。
しかし11月になると、またスギ花粉が観察できるようになった。


・11月13日頃の雨中のスギ花粉

図19 11月13日頃の花粉1 図20 11月13日頃の花粉2
図19 11月13日頃の花粉1 図20 11月13日頃の花粉2


図21 11月13日頃の花粉3 図22 11月13日頃の花粉4
図21 11月13日頃の花粉3 図22 11月13日頃の花粉4


花粉は、萎んだもの、割れた物などが多かった。


・11月22日(台風27号)頃の花粉

台風27号は、日本の南側を舐めるように進んで沢山の雨を降らした。この時の雨中にかなりしっかりした花粉が観察された。
その写真を図23~26に示す。

図23 11月22日頃の花粉 図24 図23の拡大
図23 11月22日頃の花粉 図24 図23の拡大


図25 11月22日頃の花粉 図26 図25の拡大
図25 11月22日頃の花粉 図26 図25の拡大


多少の萎みは認められるが、オービクルもしっかり付着している。


・11月28日頃の花粉

11月末の雨中にも少量だが花粉が認められた。花粉は少し萎んでいた。

図27 11月28日頃の花粉1 図28 11月28日頃の花粉2
図27 11月28日頃の花粉1 図28 11月28日頃の花粉2



・12月19日頃の花粉

まさかと思ったが12月の雨中にもわずかではあるが花粉が認められた。

図29 12月19日頃の花粉 図30 図29の拡大
図29 12月19日頃の花粉 図30 図29の拡大


12月の花粉の量は少ないが、あまり萎みもなく、正常に近いものである。

以上、2019年3月から12月まで、雨中に含まれていたスギ花粉を調べてきた。
その量を纏めてみると次の表になる。

図31 花粉量の月日変化
図31 花粉量の月日変化


ここで、◎は大量、○は少量、△はごく少量、Xは認められない事を示す。


・考察:5月過ぎても花粉が観察される理由

5月以後にも、なぜ花粉が観察されるかについて考察した。
一般に、雨を降らせる積乱雲を代表とする層積雲の高度は500~2000mと言われている。 その温度はせいぜい-5℃である。高度が高いうろこ雲やさば雲で代表される上層雲の高度は6千m以上であり、温度も-25℃以下といわれている。 一方、台風の高度は大きいもので1万~1万5千mにも及ぶものがある。 したがって、台風は1万m以上の上空をかき混ぜて雨を降らせる。 春に飛散した花粉で、あるものは春風に乗って、1万mくらいの高度に舞い上がり、そこはかなり低温なので、冷凍されそのまま浮遊しているのではないか。 それが台風の強い風で、かき回され、下に雨として落ちてくるのではと想像した。 すなわち上空で冷凍されて保存されていた花粉が、台風で下りてきたと考えられる。 それが8月14日の雨中に観察した正常な花粉ではないか。9月以降は空中に浮遊する花粉が少なくなり、台風の雨にも含まれなくなったと考える。

次に11月に損傷を受けている花粉が観察された理由を考察する。 8月頃は、日本の上空や南の海上に浮遊している花粉が台風雨で陸上に落ちてくるが、9月、10月に観察されなかった花粉がなぜ11月になって再び観察されたのか、不思議である。
この時期は冬の季節に変わるころで、北の高気圧と南の低気圧が交互に押し合いをして雨を降らせる。 11月には北の高気圧が発達し、日本海や大陸上空に浮遊していた損傷を受けた花粉を北風で日本上空に運び、雨として降らせたのではないか。 12月の花粉はかなり正常の物で、ひょっとしたら、この秋に飛散を始めた花粉ではないかと想像する。 これらの検討結果は、想像の域を脱していない。専門家の助言が欲しい。

次回は、スギ花粉以外の花粉の月別分布について紹介したい。


                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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