■ 可憐で控えめな白い花のムラサキ
万葉集にも歌われた可憐な白い花、ムラサキを手に入れる事が出来た。 ムラサキは今では絶滅危惧種になった貴重な植物である。紫色の根(紫根)を染料として、高貴な紫色に染めるのに使われていた。 このムラサキが東京都西多摩郡檜原村の浅間尾根で昭和38年に発見され、熱心な野草愛好家に保護され育てられて現在に至っている。 檜原村の小学校でも大切に育てられているとの事。今回友人からそのムラサキを一鉢頂くことができた。 そこで、玄関で大切に育てることにした。花の後には種が実った。育てるのは難しいと言われているが、なんとか来春には種を蒔いて育てたい。 今回その貴重な花のミクロ観察をしたので報告する。
図1は頂いたムラサキの花である。茎は細くて長く、葉と茎の間に花が咲き、種ができる。花が咲くと茎はどんどん先に長くなり、先端部に花が咲く。 図2は花弁を正面から撮影した写真で、5枚の花弁から構成されている事が分かる。 中央は窪んでいて、その穴の中に雄蕊と雌蕊が見える ・花の観察
図3はさらに接近して花の中央部を撮影した写真である。 穴に続く花喉部は白い毛のような組織で被われ、花喉の先端部には透明でマッチ棒のような腺毛が見える。 図4はそれをSEM観察した写真である。穴の奥に五本の雄蕊と、中央に雌蕊が見える。
雌蕊と雄蕊の配置を見るために、花の筒部の側面を少し切り取って見たのが図5である。 雄蕊は雌蕊の上部に位置し、花粉が振りかけられるように配置されている。密に誘われて昆虫がこの狭い筒に入れば、受粉が実現できる。 雄蕊の上の喉部には図3で見た、白い毛状の組織が認められる。 これは、外から入った昆虫を誘導する匂いや花粉を落とさせる機能があるのでは。
図7~10は花の喉の構造を順次拡大して観察した結果である。先が尖った袋状の細胞がダリアの花のように並んでいるのがわかる。
図10では乳房のような形の細胞が並んでいるのが分かる。これはどんな働きをしているのだろうか。
図13は雄蕊が並んでいる部分である。雄蕊は花弁の根元の部分から成長していて、その生え際には腺毛が生えているのが分かる。
図14~16は順次拡大して観察した結果である。拡大すると、花粉は非常食用の乾パンに似ていて、10μmx6μmx6μmくらいの大きさである事が分かった。
図17は、雌蕊の光学顕微鏡像である。ところどころに花粉と思われる輝点が見える。 図18は雌蕊を正面から撮影した像で、焦点を下部の子房に合わせてあるので柱頭はボケて見えない。4個の子房が見える。
図19は図18のような上部からSEM観察した像である。SEMは焦点深度が深いので子房に焦点を合わせているが、柱頭も映っている。 子房は滑らかで柔らかそうである。 柱頭部を横面から順次拡大して撮影した結果を図21~24に示す。
先端部に乾パンのような形をした花粉が付着しているのを確認した。しかし、明確な雌蕊との反応は認められず、受粉が進んでいないようだ。 ・葉の観察 葉は見た目ふさふさしていて柔らかいようだ。表面に毛が生えているようだ。表面の全体像を図25に、光学顕微鏡像を図26に示す。
表面を順次拡大して観察したSEM像を図27~30に示す。
葉の表面には数百μm長さの針状の毛が全面に生えている事が分かった。しかしその役目は分からない。
葉の裏面は表面より緑色がやや薄いが、同じように全面に長さ数百μmの針状の毛が生えている。
図35の倍率では、気孔が多く認められる。その一つを拡大したのが図36である。
花の後には、子房から実った種が認められた。これを是非来年の春に蒔いて、貴重な花を増やしたい。 ―完― | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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