■スギ花粉の正体(その1) 今年はスギ花粉が多量に飛散し、花粉症の人たちを困らせた。私も30年以上も花粉症に 悩まされている。5月に入り、やっと気分がそう快になった。今回はこの花粉の正体を調べることにした。憎き花粉の写真は見たくもないと言わないで、是非、敵の正体を知ろうではありませんか。 1.スギ花粉の飛散の日々変化 花粉の飛散の日々変化については、東京都福祉保険局の発表する「東京都のスギ・ヒノキ花粉情報」で知る事ができる。図1は今年の青梅地区で測定された飛散数のグラフである。3月の20日ころと4月10日頃に大量飛散があった事が分かる。3月22日の雨上がり、庭に出て妻の車を見てびっくりした。図2のように車のボンネットが鳥の糞でもかかったように、白粉ぶいていた。
その一部を拡大したのが図3である。直径が約1cmの水滴跡があり、その一部に黄色の粉状の塊があった(全体の小さな白黒地は塗装模様)。ボンネットは水をはじくように塗装されているので、雨が水玉となって残り、それが乾燥したときに残ったものである。雨が大気を通過する際に、飛散している花粉を取り込んできたものと考えられる。実際、覆いの下で測定される花粉飛散量は、雨上がりの3月22日、23日では極端に少なくいなっている。これは雨のシャワーで大気が洗われたと考えられる。日ごろ花粉を観察したいと思っていたが、ボンネット上の花粉を採取すればよいことに気が付いた。早速セロハンテープで剥ぎ取ったところ、簡単に採取できた。それを図4に示すように、カーボン両面接着テープを貼った試料台(直径15mm)に固定して観察した。
ボンネット上で飛散している花粉を採取できることが分ったので、雨上がりに何度か採取した。水滴跡は後部ボンネット上が一番はっきりして多かった。これは走行の際、風を受けにくく、水滴が飛び散らないためと考える。出来るだけ新鮮(?)な花粉が採取できるように、採取後はその部分を水で洗っておいた。 SEMでその花粉を観察してみると、採取日によりその形状が著しく異なる事がわかった。図1の上部に赤い矢印で示した日の雨上がりに採取した花粉の様子を調べた結果を次に示す。採取した花粉は、採取日の前数日間に飛散して大気中に浮遊していたものが、雨で集められたものと考えられる。採取した花粉は紙の箱に入れて保管し、5月中旬にTinySEMで観察した。 a. 3月22日に採取した花粉
直径約30μmの球状の花粉が一面に認められた(図5)。また図6で分かるように、ほとんどの花粉には、パピラと呼ばれているスギ花粉特有の突起が認められた。したがってほとんどの花粉がスギ花粉であろう。採取して二ヶ月も過ぎているのに、また固定などの処理をしないでそのまま真空中で観察したのに、形状が球状に保たれているのに驚いた。花粉を形成している膜はかなり強靭なのであろう。 b. 4月11日に採取した花粉
分散状態は3月22日と同じように多いが、ほとんどの花粉は梅干のように萎んでいた。ホームページでヒノキの花粉として萎んだ花粉の画像が示されているところがあるので、厳密にはヒノキの花粉との区別が必要であるが、その区別については後日の課題にする。ここでは図8に見られるように、突起がある花粉が認められることから、大半がスギ花粉であると判断した。筆者も含めて、多くの人が4月上旬に花粉症で困っていたが、このような萎んだ花粉によっても花粉症が起きるのだ。 c. 4月20日に採取した花粉
萎んだ花粉は無く、割れて口が空いた花粉が認められる。大半は破片であり、より細かく砕かれて浮遊していたと考えられる。一度地面に落ちた花粉も、風だけでなく、車が走るときに舞い上ったりして、再び大気に浮遊すると言われているが、観察した形状はそれを思わせるものである。この頃でも多くの人が花粉症に悩まされていた。 d. 5月15日に採取した花粉
この時期の花粉は数も少なく、図のように凝集して存在する場所は少なく、ほとんどがまばらに分散していた。粉々の破片の中に、花粉の形状を残したものがわずかに認められた。 後半の砕けた花粉にはスギ花粉特有の突起が認められないので、どの植物のものであるかを正確に判断するのは難しい。しかし花粉情報ではスギ・ヒノキ花粉の飛散が多いと書かれているので、この両者が大部分を占めているのであろう。 この結果、飛散する花粉は、3月までは球状に熟したものであるが、4月に入ると萎み、さらには砕かれたものが飛散されていることが分かった。萎んだり砕かれた花粉でも花粉症の原因になっていることに驚いた。 −つづく− | ||||||||||||||||||||||||
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