■犬の犬歯 このカフェテラスに遊びに来てくださる人も多くなりました。先日来店くださったHさんと前回紹介した乳歯の話をしているとき、なんと犬の歯をお持ちであるという事を聞いた。 なんでも、飼っていた犬に彼女が噛まれ、化膿したので獣医さんに相談したところ、犬が家族を噛むのはよほどのことで、他人を噛む可能性もある。この癖を直すのはかなり難しいので歯を切り取ったほうがよいということになり、切断してもらった。でもかわいそうで、その切り取った歯をずっと持っていたとのことであった。彼女が快く提供してくださったので、正に犬の犬歯を観察することになった。 提供していただいた歯の外観を図1に示す。短いのが切歯で、長いのが犬歯であろう。 図2は、その犬歯を割った断面写真である。一度だけの実験だが、人の歯に比べ劈開が比較的容易にしかもきれいにできた。断面は人の歯とほぼ同じ構造で、同じようにエナメル質と象牙質が鮮明に分かる。犬の犬歯は牙のように長いためか、象牙質の領域は長い。
真空に入れるとエナメル質部と象牙質部の境界に亀裂が入った。このことは人の歯でも生じた。水分が蒸発することにより両部の間に歪が生じ亀裂が入ったのであろう。良いことは、境界は鮮明に認められることである。まず、食べ物を引き裂く刃の先ともいえるP部を観察した。
亀裂から判断して、エナメル質の厚さは先端部で約0.2mm、側面では0.5mm程度である。図4の中央部ではエナメル質の一部が剥がれ、特徴的な筋状構造が見える。 エナメル質の中央部(C)を観察すると。
図6〜8は図5の場所の拡大像である。人の歯と同じような3〜5μm径のエナメル小柱が認められた。
図8から、小柱はさらに細い約0.2μmの繊維から作られていることがわかる。 次に歯の表面部を拡大して観察した。
小柱組織が表面まで鮮明に見える。最表面は大人の歯よりさらに薄い(<0.2μm)膜で覆われている事が分かった。もともと肉食動物であり、物に噛み付き、引き裂く働きをする強靭な犬歯の表面が、なぜこのような薄い膜で覆われているだけなのかが不思議である。 次に、象牙質と歯髄の境界部(R)に注目した。
中央部(図11)、側部(図12)の観察から、象牙細管は歯髄表面から直角に、ちょうど髪の毛のように生え並び、それが皆整然と先端の方向に伸びている事が分かった。これは細管から栄養を供給するだけでなく、エナメル質を支える丈夫な構造になっているのであろうか。
境界から100μmほど離れた場所の象牙細管を拡大して観察(図14〜16)した。 人の細管と同じように、細管内に象牙繊維が認められた。
次に、エナメル質と象牙質との境界を観察した。真空中に入れると、エナメル質と象牙質の境界に亀裂が入ったが、部分的には亀裂が境界から外れている場所があった。
図17〜20はその境界部(I)を拡大しながら観察したものである。右下がエナメル質であり、左上が象牙質である。
図19、20では象牙質に特有の細管が、エナメル質特有の小柱構造が認められる。 両質の界面は急峻であり、どのように形成されたのかを知りたいものだ。 以上、犬の犬歯を人間の歯と比べて観察したが、同じ哺乳類であるためか、全体的にはよく類似している事が分かった。一例の観察だが、犬の組織のほうがより規則正しく単純に出来ているように感じた。また、牙のような犬の犬歯はエナメル質の厚さでなく、象牙質の割合が多くなっていることが分かった。象の牙は、象牙質と言うからには、之が大きくなったような構造なのであろうか。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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