■タンポポのタネ 蝋梅、マンサク、サンシュユ、レンギョウ、クロッカス、福寿草、菜の花、春は黄色い花とともにやってくるそうです。先日、ハイキングに行き、タンポポの花を見つけました。寒くても、踏まれても、起き上がって咲くタンポポから、元気がもらえたようです。 そういえば、昨年7月末に科学技術館で催された「青少年のための科学の祭典―2003全国大会―」を見学した時に、タンポポをはじめとする各種の種の図鑑を作った事を思い出しました。 それは神奈川県海老名市立大谷中学校の野田先生たちが出展された「ほんもののタネ図鑑をつくろう」というコーナーでした。そのコーナーのようすと作製したタネ図鑑の写真を次に示します。
世界にはいろいろな大きさや形のタネがあるというお話の後、花の写真の横に、対応するタネを選んでボンドで固定して、タネ図鑑を作製しました。右下の大きな種は菩提樹の種です。 このコーナーで、種は遠くに飛ぶためにいろんな形をしていることを学びました。 その図鑑の最初に、よく似た花とタネである、カントウタンポポ、ブタナ、コウゾリナがありました。 今回はこの標本を用いてこの三種類のタネをSEMで観察して比較することにしました。 ・カントウタンポポ、ブタナ、コウゾリナの比較 まず図鑑の拡大を示します。
タンポポは英語でダンデライオン(dandelion)と綴り、葉っぱがライオンの歯(dan)に似ていることに由来しているようです。ブタナは漢字では豚菜と書かれ、豚が好んで食べることに由来しているようです。コウゾリナは漢字で髪剃菜と書き、茎や葉に剛毛があり、カミソリ(髪剃)のようであることからそう呼ばれているようです。三種は同じキク科であり、花も間違いやすいようです。いずれもタネは実に柄が付き、その上にパラシュートのように白い冠毛が広がっていて、風で飛びやすくなっている。コウゾリナのタネは柄が少し短いようです。 この図鑑からタネをそっと取り出し、ルーペで観察した後TinySEM(加速電圧:11kV)で観察しました。 まず、三種の冠毛の様子をルーペとSEMで観察した結果を示します。(SEM像の背景に見える円形の模様は、試料の固定用に用いたカーボン接着テープの表面像で、試料構造ではありません。)
いずれも傘の骨のように冠毛が広がっている。特徴的なのは、ブタナとコウゾリナにはさらに細かい毛が認められることである。 三種を比較しながら観察を続けた。冠毛が柄から広がっている付け根部分を拡大すると、
冠毛の付け根は、まさに傘の骨がロクロにまとめられている構造に似ている。種が成熟すると傘を広げるように冠毛が広げられ、空中に舞う準備ができるのであろう。 次に広がった冠毛の一本一本を観察した。ところどころで、試料の固定の際に折れた冠毛があったので、試料を傾斜して、その断面も観察した。さらに冠毛の先端部も観察した。
冠毛は、傘の骨にあたる。冠毛はタンポポのほうがより細く、また、ブタナやコウゾリナに比べて、倍くらいの60〜80本の冠毛が一本の柄から生えているようだ。さらに三種類の冠毛はすべてより細い毛(名前がわかないので、ここでは微毛と呼ぶことにする)の束からできていることが分かった。微毛はいずれも管状で、直径は約2〜6μmである。一本の冠毛に束ねられた微毛の数は、タンポポ<ブタナ<コウゾリナの順で多くなっている。正確に数えるのは難しいが、タンポポではせいぜい10本からなるが、コウゾリナでは30本以上が束になっている。さらにブタナとコウゾリナでは、この微毛が途中で束からどんどん離れて枝のように広がっていることである。この広がった微毛が実は図2〜4で認められた冠毛より細い毛であったことが分かった。辞典によれば、この微毛は細胞質を失った死細胞であるとのこと。 微毛には継ぎ目が認められなかった。そうすると、数百ミクロン以上の長い細胞であったのだろうか。 冠毛は種をより遠くに運ぶためのパラシュートである。冠毛はより軽く、強く、空気の浮力を十分に受ける必要がある。今回の観察によって、パイプ状の死細胞でできた冠毛は、まさに生物が作った格好のパラシュートであるという発見をすることができた。細いパイプを束ねた冠毛は、軽く、強く、弾力性もよく、網目状の構造で浮力も十分受けられる構造になっている。だから種を数キロも遠くに運び、新しい群れを作ることができるのだ。 ・タンポポの実の観察 図鑑のタネの実は、ボンドで固定してしまったので取り出すことができない。そこで昨年採取していたタンポポの種を用いて、実の詳細をSEMで調べることにした。外観だけでなく、中身も見たくて、安全カミソリで縦断面と横断面を作製した。そのルーペ拡大写真を次に示す。撮影はいつものようにデジタルカメラのレンズ部に10倍の拡大ルーペを接近させて行った。タンポポの実の外観は蓑虫のような形で、上部には棘状の凹凸がある。これは、物にくっつき易くするための仕組みであろう。実の断面の中には、白い実が詰まったものがある。多分これは発芽の際に栄養となる胚乳であろう。
実の横断面は扁平で、広い径は約1mm、狭い径は約0.5mmで長さは4〜5mmである。縦断面も横断面もほぼ中央部を切り取った。 まず、実の外観を観察した結果を示す。
実の外皮表面全体は長さ30μm程度の円錐状の突起物で覆われていた。さらにその表面には、0.2〜0.5μmの球状物が付着している。棘の表面にも下部にも同様な構造がある。 縦断面試料の観察結果では、
実の断面中央には、ルーペでは白く見えた胚乳がある、その外側は外皮で覆われている。
外皮には、細胞質がなくなった細胞膜がきれいに見える。実の下部にある胚芽部も興味があるが、詳細の観察は次回にすることにした。 次に横断面試料を観察した。
棘部は細胞が多く詰まった構造であった。胚乳部には縦断面で観察したときと同じような凹凸構造があった。これは胚芽が成長するときに使う糖分やたんぱく質などの栄養物である。像を見ていると、ちょうど子供用のビスケット(たべっ子どうぶつ等)が詰まっているように見えた。タンポポが種から発芽する時も、ちょうど子供におやつを与えるように、ご馳走が準備されているのだろう。 −完− | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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